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出現する未来

  • タイトル:出現する未来 (講談社BIZ)
  • 著者:センゲ,P.(著)、シャーマー,O.(著)、ジャウォースキー,J.(著)、野中 郁次郎(著)、高遠 裕子(著)
  • 出版社:講談社
  • 出版日:2006-05-30

ミニレビュー

●勇気ある逸脱

 ピーター・センゲは「学習する組織(ラーニング・オーガニゼーション)」というコンセプトを提唱した著名な経営学者です。センゲ氏は学習する組織の能力の要として「システム思考」を重視しましたが、この本では「その先」を探っています。監訳者である野中郁次郎教授の解説文から引用します。

引用:

 

 センゲは、やがて工学系の分析的なシステム思考では物事の本質を捉えるのに限界があることを認識したのではないだろうか。そこから今回の『出現する未来』で行きついたのが、なんと仏教の方法を取り込むことなのである。原題は『Presence』であるが、立ち現れてくる未来の予知能力をどう捉え、育成するかを解明しようとして著者たちが対話を重ねているのである。(p4)

 この本は対話形式となっており、学問的な手続きを踏んで書かれた考察ばかりではありません。知識をチャージするために読むのではなく、著者と共に考えるつもりで批判的に読む必要がある本です。
 例えばエピローグでは、水に言葉を掛けるとその内容によって結晶の形が変わるという江本勝氏の研究成果(参照:「水からの伝言 – Wikipedia」)を、思想と現実の共依存性を示唆する事例として紹介しています。この部分だけ読むと、エセ科学を根拠にした疑似宗教まがいの議論にも思えます。

 このように、ところどころ戸惑ってしまうほど精神的なのですが、しかし無視するには本質的な洞察が重ねられています。誰もが認める学問的事実だけをつなぎ合わせただけでは到達できないような領域に踏み込もうとしている、著者の勇気を感じます。

●問題解決ではなく、未来創出の方法論

 テーマを要約するのが難しい本ですが、敢えて要約すれば「未来創出の方法論」に挑戦していると言えそうです。
 なぜ従来の問題解決プロセスでは組織や社会の問題を把握・解決しきれないのか。著者は「はじめに」で、生命体や組織では「全体イコール部分の和」とならないためと説明しています。
 この限界はしばしば指摘されることです。しかし著者たちはその指摘を繰り返すに留まらず、では望ましいと願う未来をどのように創出すればよいのかを考えています。

 その方法論のベースとなっているのが、共著者のひとりオットー・シャーマーの開発したU理論。ふたたび監訳者解説から引用します。

引用:

 

U理論は(1)センシング(現実に埋没し状況と一体となる)、(2)プレゼンシング(出現する未来の源の内側から見る現在を見直す)、(3)リアライジング(大きな世界を共に創る)というプロセスをとる。Uを下るときは習慣的な見方を変えるとき、Uの底は中心の中心を見るとき、Uを上るときは意識の源を変えるときなのである。

 社会変革、組織論、自己成長、どのような観点から読んでもいろいろと考える種をもらえる本でした。多くの話題がスピリチュアルな話とアカデミックな話の境界にあり、前者をなんとなく避けがちなわたしにとっては関連情報へのリンクを収集するよい機会にもなりそうです。

コンセプトノート