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コンセプトノート

265. スピードを落とす勇気

速くするために、遅くする

「ゆっくり走れば速くなる」という印象的な文章を読みました。少々長いですが引用します。

 ある24時間マラソンのアスリートの講演で「ゆっくり走れば速くなる」という話を聞いたことがあります。そのアスリートは、それまで激しい練習を重ねていたそうです。自分の限界に挑戦しタイムの更新ばかりを気にしていました。ところが、過酷な練習がたたって故障したのです。

 練習を休んでいたときに本を読んでいると、あるマラソンコーチの言葉が目に入ってきました。それが「ゆっくり走れば速くなる」です。

 練習中はゆっくり無理なく走ります。すると体ができてきて、早く走れる体力が身につくのだそうです。そのアスリートがゆっくり走る練習法に切り替えたとたん、ぐんぐん成績が伸びていきました。そして、世界大会で何度も優勝するまでになったのです。

高橋 フミアキ 『頭がいい人の1日10分文章術―ゲーム感覚で楽しく身につく』

著者の高橋フミアキ氏は、主宰する文章スクールにこの考え方を応用しました。簡単な課題に楽しんで取り組んでもらうことで、受講生の上達度が向上したとのことです。

同じことを経営者の意思決定について述べている本もあります。

型どおりの理解しかしなければ、状況が変わっているのに、過去の解決策をそのままあてはめてしまう。アメリカの経営者は、素早い判断こそ重要だと思っているが、状況が変わった時に必要なのは、スピードを落とすことだ。スピードを落として、じっくり観察し、自分の立ち位置を知る。その上で、内なる知から湧いてくる自然な流れに従って、素早く行動することだ。(p108)

P. センゲほか 『出現する未来』 講談社 2006年

アスリートが過酷な練習の果てに故障するように、企業も過酷な競争の果てに判断を誤ることがあります。同じことは、人生の経営者たる個人にも起きています。

スピードを落とす勇気

スピードを落として、それからどうすればいいのか。さらに続けて引用します。

スピードを落として、じっくり観察し、自分の立ち位置を知る。その上で、内なる知から湧いてくる自然な流れに従って、素早く行動することだ。十分にスピードを落として、何が必要かを見極めなければならない。斬新な見方ができれば、斬新な行動がとれる。(p108)
― 同上

スピードを落とすデメリットは、はっきりしています。スピードを落とした分だけ成果が出なくなります。その間に競争相手が先を行くかもしれません。一方でメリットは曖昧です。じっくり観察してよく考えれば、ほんとうに「内なる知」なるものから何かが湧いてきたり、斬新な見方ができるようになるのでしょうか。

こればかりは、やってみないと分かりません。結果が分からないのに敢えて一歩踏み出すためには、勇気を必要とします。キャリア・チェンジを果たした個人や、変化に対応しつつ成長している企業(部署)の経営者(組織の長)などは、こういったスピードを落とす勇気を持っていると思います。

具体的にどうやってその勇気を身につけていけばよいか、思うところを稿を改めて書いてみます。