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「武士道」解題―ノーブレス・オブリージュとは

本書は、前台湾総統の李登輝氏が、新渡戸稲造の「武士道」について、自身の体験や古今東西の哲学や宗教との比較を交え、平易な文章で、現代にこれを活かすための考え方について解説してくれたものです。

武士道だけでなく、禅、西田幾多郎、親鸞、カント、カーライルをはじめ、さまざまな古今の哲学思想に、もちろんキリスト教(新渡戸稲造も李登輝もクリスチャン)も交え、さながら「哲学入門」の様相をみせています。

しかしながら、もちろん原文の引用は難解なところが多いですが、李登輝の解説は実にわかりやすく、かつ現代社会生きる者の参考になるようにきちんと咀嚼されており、非常に勉強になりました。

「武士道」というものが、単に江戸時代までの武士の行動規範であっただけでなく、その高い道徳性が、広く日本人の生活にまで根を下ろすものとなっていたこと、非合理・不平等の規範ではなく、「公」を非常に重視する価値観であること、「義」「勇」「仁」「礼」「誠」「名誉」など、現代日本社会から失われてかけている、「人間としての品性」を磨くことに直結する価値観が、武士道の中に含まれていることなどが、説得力をもって論じられています。

「武士道」と聞けば「軍国主義・戦争礼賛の思想」と短絡して忌避することが、大きな間違いであることがわかります。

もちろん、今の日本社会で、このような道徳規範を「武士道」とネーミングして再び広めることには、かなり抵抗もあることですが、ここで述べられている価値観は普遍的なものであり、日本人として知っておくべき教養だと思います。

さらに、この本の中でも繰り返し、

引用:

日本の「武士道」の良さというのは、口先だけではなくて、実際に行うというところにこそあるのだ、ということを決して忘れてはなりません

とあります。「いかに生きるべきか」を考え、「動く」ための指南書としてこそ、本書を活用して欲しいと思います。