「準備もできていないのに、○長になってしまった」
マネジメントやリーダーシップについて十分なトレーニングを施してから「長」に昇格させる組織は、わたしの知るかぎりありません。われわれは、「準備もできていないのに、○長になってしまった」と言いながら、見よう見まね、試行錯誤、当たって砕けろを繰り返して`学んでいきます。何よりも経験からの学びが大きい(参考:「学びは現場7割」「学び続ける人」)ことを考えれば、合理的なアプローチといえるかもしれません。
ただ、同じ経験をしても、そこから何をどこまで学び取るかは人によって違います。否応なく経験は積んでいくわけですから、せっかくなら1の経験から10を学び尽くすつもりで臨みたいもの。
そこで、年末年始の私的課題図書『経験学習によるリーダーシップ開発 米国CCL:Center for Creative Leadershipによる次世代リーダー育成のための実践事例』から、特にリーダーシップを念頭に、経験から学んでいくための計画を作りたいと思います。この本は82のミニ論文集のような体裁になっていますので、つまみ食い的に引用しつつまとめてみました。
まず、学習サイクルを定義する
まずは経験から学ぶという行為の全体像をおさえるためのフレームワーク。IBMが開発した、本人と上司がペアを組んでリーダーシップ開発を図るためのステップ「PARR」から、本人部分を抽出しました(上司の問いはリンク先を参照)。
- 【準備 (Prepare)】 「私が獲得すべき能力は何か?」
- 【行動 (Act)】 「私が担当すべき業務は何か?」
- 【内省 (Reflect)】 「私は経験から何を学んだか?」
- 【レビュー (Review)】 「上司や同僚に伝えられる知見は何か?」
マネジャーのための学習モデル (PARR) – *ListFreak
準備 → 行動 → 振り返り(内省)はよくある3ステップですが、最後の「レビュー」が気に入りました。学んだことを持論として磨き、周囲に伝えていくのもリーダーの役目ですからね。
以下、この4つのステップのそれぞれに他のミニ論文を当てはめてみます。
準備:学習の心構えをつくる
何のために(目標)、どのような環境で(人間関係)、どうやって(ストレッチ)経験を積むか。準備のためのリストとして使えそうなのがGPS•Rという4つの視点でした。
- 【目標 (Goal)】 仕事と人生において、思い描く方向性を見定める。
- 【人間関係 (People)】 自分を奮起させ、支援し、育成してくれる人たちの中に身を置く。
- 【ストレッチ (Stretch)】 成長したい分野で自分を成長させられる課題を引き受ける。
- 【内省 (Reflection)】 仕事の上で何が順調で、何がそうでないかを考える時間をつくり、そこからの気づきを未来に向けてすべきことに当てはめる。
経験から学ぶ視点 (GPS•R) – *ListFreak
内省は次のステップと重複するので省略します。『この態度を早めに取り入れれば、学習することが自然な形で業務の一部になっていく。』とありました。
行動:学習戦術を駆使する
ストレッチできる、挑戦的な課題に取り組むとして、その経験からどのように学び取るか。本書には4つの戦術が紹介されていました。
- 【感情戦術】 不安や不確かさを冷静に受け止める。気持ちを信頼する。
- 【行動戦術】 すぐに行動し、何が役立つかを判断し、次の方策に活かす。
- 【考え方戦術】 過去のケースから今後を予測する。情報を集めて事実関係を検証する。
- 【他人に相談戦術】 経験者からの助言、実例、支援、指導を求める。他者の行動を観察したり研修を受講する。
経験学習のための4戦術 – *ListFreak
「感情戦術」がややわかりづらかったので、わたしなりの理解を補足しておきます。気持ちを落ち着かせ、意欲をつくりだし、気持ちを信頼しする。これは言ってみればEQ戦術です。この戦術単体を用いるというよりは、他の3戦術を効果的に機能させるための戦術という印象を受けました。
『大半の人々は、以上の戦術の1つや2つは利用している』とのこと。逆に言えば、多くの人にとって4つの戦術をくまなく使う余地は大きいということでしょう。「行動」のステップで使える戦術の引き出しを持っておくのは有益そうです。
内省:結果と(次の)行動のサイクルを回す
内省がなければ経験しただけに終わってしまいます。内省あるいは振り返りのフレームワークはたくさんありますが、本書から一つ引用します。
- 何をしたの? …… 経験を思い出し、感覚記憶にアクセスする。
- それにどんな意味があるの? …… 行動の影響と結果について考える。経験が知識に変化する、吸収と適応のプロセスが始まる。
- 次に何をするの? …… 発想力を用い、経験から学んだ知識を応用する。
(結果と、それにいたる)行動を思い出し、意味づけをした後で、次の行動をイメージする。このシンプルさが思い出しやすくていいですね。
レビュー:リーダーとしての持論を磨く
ベテランが教え上手とは限りません。経験から学んだ知識を他人に移転するためには言語化が必要です。Teachable Point Of View(直訳すると「指導可能な視点」)は、そういった持論・コツ・秘伝のような概念をうまく表現した、個人的に好きな言葉です(参考:「持論の効用とその作り方」)。本書でも LTPOV すなわち Leadership TPOV として一項が割かれていました。
TPOV はそれ自体非定型なのでこれまでのステップのようにリスト化しづらいところがあります。本書では『最高のLTPOVとは、失敗談や課題を克服するのに苦労した話が多い』とありました。
具体的なエピソード、しかも聞き手が親しみを感じやすい失敗談や苦労話に、「大事なこと」を埋め込んでいく。口伝や民話のようですね。
「大事なこと」は語り手が自由に選ぶべきものでしょうが、本書に紹介されていた要素を引用しておきます。
- 好業績を実現する方法に関する発想がある
- 行動と判断の基礎となる価値観を持っている
- 自ら前向きな感情エネルギーを示すだけでなく、他の人たちの同じエネルギーも刺激する
- 現実に立ち向かう意欲と能力という強みを示しながら、苦渋の選択をする
以前に考えた「スターエピソード」というアイディアは、まさに(L)TPOVだと思います。
学習サイクルを回す
このステップを最近の仕事に当てはめてみると、小さな振り返りはやっているものの、準備やレビューはなおざりにしてきていると実感しました。
ちょうど年末。来年は一つの仕事について一枚の「経験学習シート」を作り、埋められるところだけでも埋めてみようかと思います。わたしの仕事ではエピソードの収集も重要ですので。