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コンセプトノート

709. 未来を見る・読む・動かす(あるいは船をつくる方法について)

年初に、未来について考えるための本を何冊か読みました。

未来を予測するステップ

まずは、未来学者エイミー・ウェブによる 『シグナル:未来学者が教える予測の技術』から。氏は、未来予測と戦略立案の手順を6ステップにまとめています。読書メモを兼ねて本文から作成した要約を共有します。

  1. 【社会の端っこに目を凝らす】 社会の端っこ、あるいは特定の研究分野を観察し、情報を収集する。ノード同士の関係性を示すマップをつくり、「想定外のニューフェース」を絞り込む。
  2. 【CIPERを探す 端っこの情報を分類し(「矛盾 (Contradiction)」「変曲 (Inflection)」「慣行 (Practice)」「工夫 (Hack)」「極端 (Extreme)」「希少】 (Rarity)」)、そして隠れたパターンを発見する。
  3. 【正しい質問をする】 発見したパターンが本物のトレンドなのか見きわめるための質問をする。反論を考え、自分の仮説の穴を探る。
  4. 【ETA(到着予定時刻)を計算する】 トレンドのタイミング、あなたの組織にとってのタイミングが適切であるかを確認する。ハイテク企業内部の変化と政府や隣接業界の変化の二つの力を計算に入れる。
  5. 【シナリオと戦略を考える】 未来に「起こりうる、起こるかもしれない、起こりそうな」シナリオを考え、それぞれに対応した戦略を立案する。各シナリオにスコアを付与し、行動計画を立てる。
  6. 【行動計画の有効性を確認する】 シナリオは網羅的か。確信レベルは妥当か。未来に向けた正しい戦略か。現在と未来の両方について問い、ストレステストにかける。

未来予測の6ステップ*ListFreak

キーワードリストに圧縮すると、「特異点の探索 → パターンの発見 → トレンドの見極め → タイミングの予測 → 戦略立案 → 計画の検証」となるでしょうか。リスト化してしまうと当たり前のように感じられますが、たとえば「社会の端っこに目を凝らす」ことの難しさを、事例を引きながら感じさせてくれる刺激的な本でした。

見出されているトレンド

自分の未来についてはもちろん自分で予測しなければなりませんが、マクロな未来予測についてはさまざまな提案があります。経営コンサルタントのリチャード・ドッブスらは、著書『マッキンゼーが予測する未来―――近未来のビジネスは、4つの力に支配されている』で、4つの大きなトレンドを指摘しています。

  • 【経済の重心の移動】 経済活動とダイナミズムの重心となる場所が新興国市場の成長都市に移動する
  • 【テクノロジー・インパクト】 技術の発展がその範囲、規模、経済的インパクトにおいて、加速し、増大する
  • 【地球規模の老化】 人類の平均年齢が上昇し、人口減少に転じる国が増える
  • 【「流れ(フロー)」の高まり】 貿易に加え資本、人々それに情報の移動を通じ、世界が相互に結合する度合いが高まる

近未来のビジネスを支配する4つの力(マッキンゼー、2015年時点)*ListFreak

著者らは一貫して「直観力をリセットせよ」と説いています。過去の経験で未来を類推することはもとよりできないし、変化の大きな現代においては危険でさえあるというトーンです。

では、どう考えるべきか。わかりやすい処方箋を示すことはできないとしたうえで、組織のリーダーに向けて2つの提言がなされています。

  • リーダー自身が自らの直観力をリセットする能力を開発する
  • 好奇心と学ぶ気持ちとを組織の中に埋め込む

こう書かれてしまうと一般論に過ぎなくなってしまいます。直観力をリセットする能力を、どのように開発すればよいのか。

未来に適応していく、さらには未来を切り開いていくための思考

あれこれ考えてみると、未来予測というのは、なかなか面白い作業です。70億人が暮らす世界がどうなるだろうと考えると、とても確率論的・客観的・受動的な作業のように思えます。しかし、日本が、業界が、関係者が、家族が、自分がどうなるだろうと範囲を絞っていくと、どう「予測」するかというよりもどう「意志」を込めるかが重要になってきます。

自分や家族、リーダーとして仕事をしているなら自分のチームの未来は、あきらかに本人の選択によって大きな影響を受けます。自分が属する組織の未来も、規模によって実感の度合いは違うでしょうが、ゼロではありません。こうして敷衍していくと、世界の未来も、70億分の1とはいえ自分もその構成要素であるからには、自分の意志が影響する理屈になります。

世界の話はいったん置いて、自分や自分が属する組織の未来をどう予測し、どう導いていくか。先述の「未来予測の6ステップ」を眺めていると、システム思考的なアプローチが有効なように思えます。

ピーター・センゲは代表作である『学習する組織』を含む複数の書籍で、組織変革に必要な三つ組の能力を提案しています。本ノートは「未来」がテーマなので『持続可能な未来』から引きましょう。

  • 【より大きなシステムをとらえる】 自分たちを取り巻く「より大きなシステムをとらえる」方法を、絶えず学び取る
  • 【境界を超えて協働する】 自分たちを分断していた組織内外の境界を打ち破って協働(コラボレーション)を推し進める重要性を心得ている
  • 【望ましい未来を切り開く】 「問題があるからそれを解決しよう」という受け身の発想から、「自分たちが望んでやまない未来を切り開こう」という発想へと脱皮する

体系的な変革に向けた学習に必要な能力*ListFreak

最後の「望ましい未来を切り開く」という部分に関連して、枝廣 淳子らの『なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?―小さな力で大きく動かす!システム思考の上手な使い方』に印象的な引用がありました。残念ながらサン=テグジュペリの文章ではないようですが、それでもよい文章なので、敢えて引用します。

『船をつくりたかったら、人に作業を割り振るのではなく、はてしなく続く広大な海を慕うことを教えよ
  ―― A. サン=テグジュペリ』