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コンセプトノート

707. 決めるが信じない(自己変容型知性、四絶)

求ム「長老」

『寿命が極端に長くなるという変化は過去ほんの150年ぐらいの間のことです。大昔の1世代分、つまりプラス40年~50年分、長生きするようになった。』
『種としての我々が長く生きるようになった理由の1つは、さらに複雑で高度な知性を創造できるようにするためだ、という考え方があります。』
『アインシュタインは、「人類は明日の問題解決を、その問題を創造したのと同じ知性では解決できない」と言いました。つまり、もっと人類を十分に長く存続させるためには、新しくてもう一段レベルの高い知性を開発しなければいけないのです。そうした知性を備えている人を少しでも多く育てなければいけないのです。』
―― 「いくら言っても、人や組織が変わらない理由」(日経ビジネスオンライン)

『なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践』 (英治出版、2013年)に書かれていない面白い説を、著者のロバート・キーガンがインタビューで語っていました。

種としての存続を図るために、高度な知性を備えた「長老」を増やすような何らかの力学が働いている。直感的には納得しづらいものの、面白い考え方です。

知性の三段階

『なぜ人と組織は変われないのか』で、キーガン氏は大人の知性を三段階に分けて定義しています。要約をお目にかけます。

  • 【環境順応型知性(ソーシャライズド・マインド)】 周囲からの役割期待や帰属意識によって自己を形成する。チームプレイヤー。
  • 【自己主導型知性(セルフオーサリング・マインド)】 自分自身の価値基準に基づいて自己を形成する。周囲の期待を判断し、自律的に行動を選択する。問題解決志向・導き方を学ぶリーダー。
  • 【自己変容型知性(セルフトランスフォーミング・マインド)】 自分自身の価値基準を客観的に見られる。対立する価値観を統合することを通じて自己を形成する。問題発見者・学ぶことによって導くリーダー。

大人の知性の三つの段階*ListFreak

1998年の調査によれば、ミドルマネジャーでは環境順応型:自己主導型:自己変容型の比は5:5:0で、CEOでは0:8:2だったとのこと。成人一般を対象にすると、自己変容型知性の持ち主は1%未満という結果も紹介されていました。

企業理念と整合するかたちで自分なりの価値基準を打ち立てて経営判断ができるようになるまでには長年の修練が必要なことを考えれば、上記の比率は妥当なように思えます。

決めるが信じない

自己主導型知性が自分なりのメガネで世界を見ることとすれば、自己変容型知性とは、(1)メガネを外さずに世の中を見ることはできないこと、(2)メガネを通した像は必ず歪んでいること、(3)自分と他人のメガネは違うこと、などをよく知ったうえで行動を選ぶことと言えるでしょうか。

両者の違いを分かりやすく説明するために、計画に対する態度が例に挙げられていました。自己主導型知性の持ち主は、計画を推進するための情報を探します。自己変容型知性の持ち主は、もちろんそれも探しますが、同時に、計画そのものの妥当性を判断するための情報も欲しがる、とあります。なぜなら、環境が変われば計画の妥当性も変わるから。

計画に沿って行動しつつ、計画そのものをつねに疑って修正を図っていく。自己決定できるが、それを盲信しない。高い知性の特徴にはこういったメタな視座が必要ということです。

そうなるとこの三段階も疑われてしかるべきですが、いまは納得したとして、具体的にはどういう心構えでいればよいか。手持ちのリストを探してみると、孔子が免れたという四つの欠点を挙げた「四絶」がよさそうです。

  • 意(主観だけで憶測すること)なく、
  • 必(自分の考えをしゃにむに押し通すこと)なく、
  • 固(一つの考えだけに固執すること)なく、
  • 我(自分の都合しか考えないこと)なし。

四絶*ListFreak