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コンセプトノート

494. 決め型

【決め型=決め方のクセ】

決め方には、一人ひとり固有のクセがあります。いわば自分の「決め型」を持っています。

たとえば管理職の意思決定トレーニングとして、ある状況の描写を読んで主人公の立場で次の一手を決めるグループワークをしているとします。

決め方は、人によってさまざまです。Aさんは、まずざっくばらんにアイディアを出してみようと提案します。Bさんは、その前に予算と期限を確認すべきとコメントします。Cさんはその議論を聞きながらノートに何かを書いています。詳細な表を作っているようです。

よく考えて決めることを目的として学んでいる場合、Bさんのアプローチは黄信号です。予算と期限を確認するだけならば問題はありません。むしろ好ましいでしょう。しかしBさんが考える幅を最初から限定するために、予算や期限といった動かせない前提と見なせる制約を探している場合もあります。「予算や期限がこれだけなんだから、そもそもそんなことを考えてもしょうがない」というわけです。

この決め方の落とし穴は、予算や期限の遵守が自己目的化することです。他のチームが、2割の予算追加と5割の期待成果アップをセットにした新提案を発表するのを聞いて、Bさんは「ルール違反ではないか」といぶかしがることになります。

決め方のよし悪しを一概に論じることはできません。Bさんの仕事環境では上司がしっかりプロジェクトのスコープマネジメントをしてくれていて、Bさんは与えられた制約の中で早く成果を出すことが求められているのかもしれません。ここで言いたいのは、個人ごとに「決め型」があり、Bさんの場合は制約ありきで決めるのが現在の「決め型」だということだけです。「決め型」は、環境の求めに応じて身につくだけでなく、生まれつきの資質によっても左右されるでしょう。

「決め型」はどこからくるのか

決め型という言葉から連想したのが、『経営意思決定の原点』という本にあったこのリストです。

  • 決められない:優柔不断
  • 決め急ぎ:拙速
  • 決めたはず:決定事項が実行されない
  • 決めっ放し:決めたことの評価・見直しの欠如
  • 決めすぎ:頻繁な変更による資源の浪費

組織の経営意思決定に見られる5つの病状*ListFreak

このリストは、「決め型」の類型化を考えるよいスタートポイントになりそうです。厳密に考えるのはまたの機会にゆずりますが、話を先に進めるために、病状を一つだけ追加します。

  • 決めてもらう:意思決定を他者に委ねてしまう

引用元の本では、経営者は自分で意思決定を行うことが前提となっています。個人も自分の人生の経営者だと考えれば同じようなものですが、実際には他者に意思決定を委ねてしまうことがあります。実のところこの病状は本家の経営者版にも加えてよいと思うのですが、この話も措いておきます。

今回は、これらの決め型をもたらすものを探ってもう一段階さかのぼってみます。どんな心理がこれらの決め型を生むのでしょうか。今後のリサーチのために仮説を立ててみました。

人が何かを決めるときには、常に次の3つの気持ちがせめぎ合っています。

  • 「早く」決めたい(未来が決まっていない状態は不安だから)
  • 「正しく」決めたい(後悔したくないから)
  • 「楽に」決めたい(考えるのは大変だから)

この3つの心理の重なり具合が「決め型」を生みます。それぞれ簡単に説明します。

人は「早く」決めたいと思っています。宙ぶらりんの状態が心地悪いので、次にやることを早く見いだして安心したいと考えます。これが「決め急ぎ」につながります。決めると安心してしまって「決めっ放し」になったりします。決めていないのに、決めた安心感だけを先に手に入れてしまうと、「決めたはず」なのに実行されない事態になります。

同時に、人は「正しく」決めたいと思っています。将来に後悔するかもしれないという気持ちは、現在の自分に恐怖を呼び起こします。正しく決めたい気持ちが強くなるほど根拠の少なさが気になり、「決められない」事態になります。「正しく」決めたい気持ちが「早く」決めたい気持ちと拮抗すると、正しいと思われる決定を次々に繰り出す「決めすぎ(頻繁な変更)」になります。

両者の根底にあるのが、「楽に」決めたいという気持ちです。これは表現が行きすぎかもしれません。積極的にラクをしたいというよりは、そもそも頭で考えられる量があまり多くないという意味です。選択肢が多すぎると圧倒され、麻痺してしまいます。「早く」「正しく」決めたいと願いつつそういった麻痺に陥ると、自分で決めるよりは権威者などに「決めてもらう」道を選びます。

自分の決め方を「型」としてある程度分類でき、さらにそれらの型の源となる動機が整理できれば、意思決定の偏りをチェックするリストが作れそうです。もうすこし整理を続けたいと思います。