『決断の本質』は、組織における意思決定プロセスの質を高めるための本です。単に方法論を紹介するのではなく、意見の対立や優柔不断といった、組織が抱えがちな問題に焦点を当てており、とても興味深く読みました。
この本の中に、意思決定後の振り返りについて述べられている箇所があります。
教訓を学ぶ練習は、計画的に行い、長期にわたる習慣にすれば非常に効果がある。(略)
デビッド・ガービンの研究によると、米国陸軍は過去の経験を反省するための仕組みを開発し、非常に優れた成果を上げている。陸軍はすべての任務終了後、事後点検を行う。討論は四段階に分かれていて、段階ごとに次のような質問が出される。
1. 我々は何をしようとしたのか?
2. 実際には何が起きたのか?
3. なぜそうなったのか?
4. 次回はどうするか?
この4項目のリストは、漠然と見ていても「当たり前」にしか感じられません。しかし、意識して使えばとても強力なツールになると感じましたので、学んだことをまとめてみます。
ポイント1:既に起きた問題を「再解決」する
過去の経験を反省し、再検討する場合に、いきなり三番目と四番目の質問から始める組織が多い。しかし、陸軍では最初の二つの質問にかなりの時間を割くことが重要だと考えられている。全員が任務の目標とその達成度を測るための基準をはっきりと理解することが必要だと考えているからである。
この、最初の二つの質問に時間を割くというくだりを読んで、陸軍は事後に「分析的な問題解決のプロセス」をきちんと踏み直しているのだということに気がつきました。
支障なく終わったからOKという結果オーライ型の評価でなく、目標(我々は何をしようとしたのか?)とのギャップにおいて問題を定義する。それを始点に、問題解決のプロセスをなぞり直す。いわば、過去の問題を「再解決」しているわけです。
結果でなくプロセスに着目した反省は、問題解決力を高めるための正のフィードバックループを回す鍵となるでしょう。一つの任務の反省というよりは、問題解決力向上のためのトレーニングですね。
ポイント2:成功しても失敗しても反省する
結果オーライでなく当初目標からチェックするということは、結果にかかわらず必ず反省するということです。
成功または失敗の程度がどうであるかにかかわらず、すべての任務を検討する。非常に成功した任務であっても、多くの過ちが起きた可能性があることを認識しているからだ。また、たとえ任務が失敗したときでも、その中には将来役立つことも含まれているからだ。
事例が軍隊の任務であるせいでしょうか、反省の視点として「次に失敗しない」ことに重きが置かれているように感じます。
これを個人の反省に援用するならば、成功要因について考えておくのも有用だと思います。成功要因といっても、自分の努力ばかりではないはず。そこで成功を謙虚に振り返るための、もう一つのフレームワークを導入したいと思います。それは、「因」(直接的な原因)は「縁」(間接的な原因。偶然やご縁)があって初めて「果」に結びつくという仏教の発想(参考:「原因と結果の間にあるもの」)。
成功の直接的な要因をどれだけ揃えられたかだけでなく、どんな偶然やご縁に助けられたかも併せて振り返ってみることで、成功をもたらしてくれた方々への感謝を忘れずにすみそうです。