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コンセプトノート

254. 偶然は必ず起きる

『自滅する企業 エクセレント・カンパニーを蝕む7つの習慣病』という本は、成功した企業が変化に適応できず滅んでいくメカニズムを追っている本です。個人に置き換えて読んでいくと身につまされることが多く、読みながらなんとなく焦ってきてしまいました。

個人における生活習慣病のごとく、自滅に至る企業が罹りがちな7つの習慣病が挙げられています。その第一は「現実否認症」。トレンドの変化など観察可能な事実から目を背けてしまう病気で、それは成功の原因をすべて自分に帰するところから始まるようです。

 私が調査した多くの企業では、底辺から出発したことを忘れ去り、自らの偉大さを神話化するようになると、現実否認が進行しはじめるようだ。偶然成功した企業がどれほど多いことか、また、尊敬されている企業の中にも、幸運にもタイミングよく成功する場所にいた企業がどれほど多いことか。そう考えると、現実否認に陥る傾向は非常に印象的(そして滑稽)である。

 売れない俳優やミュージシャンと同じで、そういう会社は幸運にも「発掘された」のだ――タレントスカウトにではなく、たった一人の重要な顧客によって。実際、たいていの場合、企業を成功に導くのは一部の顧客であり、しかも顧客のほうがその会社を見つけ出すことが多い。

(p48)

この部分を読んで、偶然の力について考えたことをまとめておきます。

「ただ運が良かった」ことを忘れない

今の自分をここまで運んでくれた数々の「偶然」を忘れてはいけません。ある結果には必ず偶然(縁)が作用している(「原因と結果の間にあるもの」)と考えるならば、一度成功した仕事でも、2回目は失敗するかもしれません。

山田真哉氏は、ミリオンセラー『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』を謙虚にも「偶然の産物」と述べています。もちろん売れるだけの内容と仕掛けを込めた(「原因」を揃えた)という自負はお持ちでしょうが、ミリオンセラーという「結果」については、社会的背景という「偶然(縁)」の助けがあったことを指摘しています。

『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』についても、その発売がもう1年早くても、あと1年遅くても、ミリオンセラーという同じ結果にはなっていないと思います。

 なぜなら、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』のヒットの裏には、発売された2005年当時、ライブドアのニッポン放送買収騒動など、会計が関係する経済ニュースが巷にあふれていたという社会的背景があったからです。もちろん、本の出版時期は計算されたものではないので、まさに偶然の産物です。

『「食い逃げされてもバイトは雇うな」なんて大間違い』p221

偶然を待ちかまえる

ちょっと逆説的ですが、偶然は必ず起きます。偶然とは「いつ・誰に・どんなものが・どれくらい起きるかは分からないが、統計学的には必ず起きるイベント」です(絶対に起きないと分かっているのであれば、それは「起きないという必然」になるわけです!)。

さらに「ある結果には必ず偶然(縁)が作用している」ならば、偶然は常に誰にでも大量に起きています。ただ、ふだん我々はそれをいちいち吟味していません。偶然を待ちかまえる、つまり「この偶然はうまく活かそう」「この偶然はやり過ごそう」というつもりで日々の出来事を観察するならば、自分を望ましい方向に転がしてくれる偶然は意外に頻繁に起きているかもしれません。

そのためには「うまく活かそう」「やり過ごそう」という判断のスピードを上げる必要があります。判断のスピードを上げるためには、判断の基準を明らかにする必要があります。その基準になるのが、当サイトで言うところの「ありたい自分」です。