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コンセプトノート

252. 「当たり前」を「目に見せる」のがグラウンド・ルールの効果

ベスイスラエル病院のCEOに就任したポール・レビーは、組織内に無益な対立がはびこり、幹部たちが「一貫した非建設的行動」を取っていることに気づきました。会議では黙っておきながら、裏では決まったことを潰そうと立ち回るような行動が常態となっていたということです。そこで彼はどうしたか。

 レビーはこの無益な行動を阻止し、このような行動の指針となっている「不文律」を覆す必要を感じた。そこで、いくつかの手段を講じた。その手始めは、彼の幹部チームに期待する行動を定めた「会議規則」の配布だった。
(略)
レビーが決めた基本ルールは決して革命的なものではなかった。「反対意見ははっきりと述べる」とか「同意できない場合でも不愉快な態度をとらない」というような簡単な自明の理が盛り込まれていた。
『決断の本質』

会議の最中にこのシンプルな規則に何回も立ち戻ることで、レビーは会議を実のある場にすることに成功しました。

われわれも研修や会議の冒頭で「グラウンド・ルール」を決めることがあります。しかし、例えば「積極的に発言する」というルールを宣言すれば自動的に活性化するというものでもありません。

「積極的に発言する」など当たり前のことのように思ってしまいますが、自分から積極的に発言しないことが処世のコツになっている組織は少なからずあります。そういう組織では、発言を求めるときに改めて「なんでも言っていいんですよ」と伝えて初めて手が挙がってきます。参加者が白髪交じりのシニアな職位の方であっても事情は同じです。わたしも最初は当たり前のことを言うのに気が引けていたのですが、敢えて「自由に発言をどうぞ」といったグラウンド・ルールを繰り返し伝えることには、明らかな効果があると感じています。

個人でも、グラウンド・ルールとは呼ばないまでも、行動や発言の基準を定めている方は少なくないでしょう。上記の、組織におけるグラウンド・ルールの活用事例からは、自分のグラウンド・ルールを見直す2つの重要な視点を学ぶことができます。

1. 当たり前に思えることも、ルールとして明文化しておく価値がある。「「誠実な人」の行動」や「カッと来た時、口を開く前に思い出すべき「三つの門」」などの「立派な」リストも、目指すべき目標として価値がある。しかし、必ず守るべき、文字通りの意味での「ルール」を考えるならば、それは今すでにできていることをリストアップしたものになるはずだ。

2. ルールは言葉として表現し、目に見えるようにしておく。思い出すべき時に思い出せない基準を、目に見せてくれるのが「グラウンド・ルール」の効果である。