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コンセプトノート

392. つまむひと(ピッカー)ではなく、選ぶひと(チューザー)になる

Picker と Chooser

多すぎる選択肢に麻痺してしまい、選択肢に手を突っ込んでパッとつまみ上げるように選んでしまう。心理学者のバリー・シュワルツ教授は、著書『なぜ選ぶたびに後悔するのか―「選択の自由」の落とし穴』で、われわれは多くの選択肢に直面すると「つまむひと」(ピッカー、picker)になってしまうと述べています。

めざすべきは「選ぶひと」(チューザー、chooser)。教授は「選ぶひと」の選択を次のように描写しています。選択者のふるまいとしてこれ以上ないくらいの徹底した定義なので、少し長いですが引用します。

チューザーは、オプションを前にして、長短を見比べてから決断を下す。自分の人生で重要なのはなにかを考え、いま現在の選択で重要なのはなにかを考え、決断が将来に及ぼす影響を、長期的、短期的に予想する。選択は選んだ本人の人格を反映することを理解していて、それを踏まえて決断を下す。そして、望みにかなうオプションがどこにもないときは、そういうこともあると見極めをつける。それでも完壁なオプションが欲しいなら、自分でつくるしかないと承知している。

そして「ピッカーは、そのどれをもしない。」と続きます。

「チューザーの選択」をめざす

問題はここからです。チューザーの選択スタイルが望ましいのは明らかでしょうが、選択のコストがかかりすぎるのも明らかです。ではどうすればよいのか。「選択のスピードを高める技術」みたいなものを少し期待して読み進めていきましたが、教授が推薦する対策はしごくまっとうなものでした。

教授は『つまむのではなく選ぶための時間を確保したいなら、一部の決断については、習慣、しきたり、規範、ルールにしたがって、自動的に決める覚悟が必要だ』と言います。
自動的に決める例を挙げるならば、服を買うときは最初の2軒で決める、夕食のワインは2杯で止めておく、といったシンプルなルールを自分に課すことがそれにあたるでしょう。
もう少し複雑な選択については「決め方」を決めておくことができます。わたしはアポイントメントの候補を提示されたときには、原則としてもっとも早い候補日を希望します。興味を引かれた本はとにかくその場でと買うという人もいます。書名をメモしておいて本屋を探し回ったり、古本屋で安く買う・図書館で借りるといったオプションにコストをかけるくらいならば、まず買って、つまらなかったら売ればいいというスタイルを確立していました。

こういう話は、ライフハックの本やサイトでいくらでも学ぶことができます。しかしここで重要なのは決め方のルールをいくつ作ったかではなく、結果として先の引用文のような「チューザーの選択」にどのくらいのエネルギーを費やせたかです。

その観点から考えると、(重要な選択と些細な選択が識別できるという前提で)些細な選択を素早くすませて重要な選択のために時間を空けるというよりは、先に重要な選択に時間をかけてしまう発想の方がよいでしょうね。TODOリストにおいてタスクに優先順位をつけるのは、優先度A以外のタスクを捨てるためだという、以前にうかがった話を思い出しました(1)

(1) 自分戦略を考えるヒント(15)「ワーク/ライフ・バランスは働き方を変える」|@IT自分戦略研究所