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奇跡の経営 一週間毎日が週末発想のススメ


ミニレビュー

考え抜き、従業員を信じ、勇気を持って実行する

引用:

 

・組織階層がなく、公式の組織図が存在しません。
・ビジネスプランもなければ企業戦略、短期計画、長期計画といったものもありません。
・会社のゴールやミッションステートメント(企業理念)、長期予算がありません。
・決まったCEO(最高経営責任者)が不在ということも、よくあります。
・副社長やCIO(最高情報責任者)、COO(最高運営責任者)がいません。
・標準作業を定めていなければ業務フローもありません。
・人事部がありません。
・キャリアプラン、職務記述書、雇用契約書がありません。
・誰もレポートや経費の承認をする人はいません。
・作業員を監視・監督していません。
(p28)

…という特徴を持つ、ブラジルのセムコという企業のCEOリカルド・セムラー氏が書く、常識外れの経営論。これが実話だと思うとワクワクします。

「常識外れ」と書きましたが、深く考え抜いた末にたどり着いた結果が常識はずれになっただけであり、単に緩く経営しようとか、目立とうとかいうことではありません。読んでいて一番感心したのは、セムラー氏の逐一考え抜く姿勢でした。

たとえば、工場のアセンブリーライン(組み立て工程)にフレックスタイムを導入したという話。工場というものは、通常は交替制できちんとシフトを組んで流れ作業が止まらないようにします。フレックスタイムにすれば人員の都合がつかず、ラインが止まることがあるのではないでしょうか?著者はこう問い返します。

引用:

 

 さすがに、われわれも、そのことについては認識していました。でも、働いているのは、立派なおとなです。そのおとなである作業員が、どうして業務に支障をきたし、自分達の仕事を危うくするような行為をするというのでしょうか?(p67)

そして実際、(問題が起きたら対処できる体制を敷いた上で)フレックスタイムを導入したところ、作業員が自主的にスケジュールを調整し、きちんと機能しているそうです。

こうした施策の根底に見えているのは、人生における仕事の意味を真摯に問う著者の姿勢です。

引用:

 

 近年注目されている、仕事と生活のバランスだけがわれわれがもとめていることのすべてではありません。社員に、自分の真の才能は何なのか、そして自分がやりたいことは何なのかを見つけることができるように、そのための余裕と機会を与えてあげることです。そうすれば、社員の個人的な抱負を会社の目標と合致させることができ、それによって、自然にバランスはとれてきます。社員がひとたびやりがいを感じ、活気づいて、生産的になると、彼らの活動が自ずと会社に利益と成長をもたらすことになるのです。(p39)

ただのきれいごととしてこう言うのは簡単です。セムラー氏はこの理想を実現すべく挑戦を続けています。その中には、自分で報酬を決められる制度など、ときには社員が不安を感じるほどに過激な施策も含まれています。

下記も、実践者ならではの記述でしょう。

引用:

 

 社員全員に、仕事に情熱を持ってもらおうなどと期待することは、残酷なことです。なぜなら、それは達成困難な目標を設定することと同じだからです。すべての仕事が、情熱を持つに値するものではないという現実に目をそむけてはいけません。

では、どうすればいいのか?

そういった問いを考え抜いたうえで、従業員を信じ、勇気を持って実行する。そういった試みの数々が紹介されています。自分の仕事について、ワークスタイルについて、素朴に「なぜ?」と問い直すきっかけを与えてくれる一冊。