カテゴリー
資料

プロダクトマネジャーの教科書


ミニレビュー

これから重視される「スーパージェネラリスト」像とは

引用:

 

Q プロダクトマネジメントとは?
A プロダクトマネジャーは、特定の製品ラインやブランド、サービスについて、既存の製品の管理やマーケティングを行ったり、新製品開発の役割を負っているミドルマネジャーである。他には、ブランドマネジャー、インダストリーマネジャー、顧客セグメントマネジャーなどの肩書きがある。なお、この場合のプロダクトとは製品とサービスの両方を意味している。
(まえがきより)

「プロダクトマネジャー」という肩書きは、外資系企業以外では少ないでしょう。ただ上記の定義から分かるとおり、実務的には似たような仕事をしている方は多いと思います。そして中堅以上の規模の企業では、このような「スーパージェネラリスト」職へのニーズは今後高まっていくものと予想します。

なぜか。このままアウトソーシング化が進んでいけば、社内にスペシャリスト(専門職)を抱える必要性は低くなっていきます。グローバル化の進展でアウトソーシングは容易になっていきます。MBAで学ぶような経営管理方式の普及は結果としてビジネスをモジュール化し、やはりアウトソーシングを容易にします。

アウトソーシング化・グローバル化が最も進んでいる業界の一つが、IT。アメリカのIT調査会社ガートナーは、2005年に『(社内の)IT専門家は毎年1割減る』という予測を発表し注目を集めました。これはITに対する需要が減るという意味ではありません。社内のIT専門家に新しい役割が求められるようになるというメッセージです。

どのような役割か。ガートナーは、「バーサタイリスト(Versatilist)」という言葉を造りました。言ってみれば「多能職」でしょうか。

IT専門家に起きているこの流れは、営業・マーケティングや総務・経理・人事、購買部門など、社内の専門職にも広がっていくでしょう。特定の領域の「スペシャリスト(専門職)」ではないが、いわゆる「ジェネラリスト(総合職)」でもない。専門領域を持ちながらもそこに留まらず、自社の競争力に直結する業務についての責任を負う。こう考えてみれば、企業の固有の強みに直結するプロダクトマネジメントを職務とするプロダクトマネジャーは、まさに「バーサタイリスト」です。製品・サービスのプロダクション(生産)をアウトソースすることはできても、プロダクトマネジメントをアウトソースすることはできません。

「スーパージェネラリストの教科書」の好例

この本は、そんなプロダクトマネジャーの職務を詳しく解説しています。そもそも、自分の仕事の実務的な教科書があるとしたら、どんな内容が欲しいか。こんな感じでしょうか。
・充実した目次と索引
・職務に沿った網羅的なハウツー
・ワークシートなどの作業成果物のサンプル
・事例
そのすべてが、この本にはあります。ワークシートの類は出版社のWebサイトからダウンロードすることもできます。

実際にはどんな内容が網羅されているか。目次レベルではこんな感じです。

□戦略的計画立案フレームワーク
□トレンド観測、調査、顧客セグメンテーション
□競争戦略のための競合分析
□ブランド戦略
□財務と価格のパフォーマンス
□戦略的な製品計画の準備
□新製品プロジェクト
□市場投入戦略の策定
□既存製品の管理
□マーケティング計画の作成と利用
□機能別リーダーとしての地位を得る
□グローバリゼーションに備える
□プロダクトマネジメントの実情
□プロダクトマネジメントの導入とプロダクトマネジャーの管理
(裏表紙から引用)

プロダクトマネジャーたるもの何をすべきかというチェックリストとして大変網羅的だと思います(もちろん業務マニュアルではないので、これ一冊で仕事ができるというわけではありません)。

また各章の章末に、各界のプロダクトマネジャーへのインタビューがあります。読者にプロダクトマネジャーとしての矜持を育てようという著者の意図なのでしょうか、いい企画だと思いました。

訳者の新井さんはこれが初めての訳書だそうですが、読みやすく、また配慮の行き届いた本に仕上げてくださいました。例えばこのくだり。

引用:

 

 新製品のリスクや財務的な要求によっては、経営陣に対して正式なプレゼンテーションが必要になるだろう。その場合、事前に参加者の「ホットボタン」(訳注:感情の引き金)を理解して、それに訴求するように準備しておくことが大切だ。(p140)

「ホットボタン」=感情の引き金、と訳注でさばくあたりがお見事。

350ページ超の大著ながら、ソフトカバーで読みやすい装丁。この辺りも「教科書」としての配慮が窺えます。自社の製品やサービスのマネジメントに関わる人、新しい事業の立ち上げに関わる人、これからのホワイトカラーの職務を考えたい人ならば、目を通しておきたい一冊。

(参考)
IT専門家は毎年1割減る」(真髄を語る)
企業のIT部門は縮小と変化を余儀なくされる──Gartnerが予測」(ITmedia エンタープライズ)
Gartner、2006年の IT 業界トレンド予測を発表」(Japan.internet.com Webテクノロジー)