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人は勘定より感情で決める ~直感のワナを味方に変える行動経済学7つのフレームワーク


ミニレビュー

行動経済学の本に食傷気味の人も少なくないと思いますが、本書にはいくつかの特長があります。

まず、著者が日産自動車に勤務するマネジャーであること。これまでの行動経済学の本は学者による解説が主でしたが、本書では実務家による二次的な解説書になっています。

次に、さまざまなバイアスを著者なりに体系化したこと。これは素晴らしい試みだと思います。この手の本では「アンカリング」「フレーミング」「現状維持バイアス」など個別のバイアスがたくさん紹介されますが、それらのつながりが明快に解説されたことは(わたしが読んできた本の中では)ありませんでした。学者はアカデミックに実証しなければならないがゆえに、体系を提示しづらいのかもしれません。
著者は自分の理解に基づいて、そういったバイアスをグルーピングし、バイアス間の依存関係(例えば、「現状維持バイアス」はプロスペクト理論の「損失回避性」がもたらすものと考えられる)を整理しています。表紙を折り返したところに1つの大きな図解としてまとまっています。

最後に、独自の事例で解説していること。従来の本では、これも学者が書いた本の宿命として、引用元と実験結果を明示しなければなりません。有名な研究はたくさん引用されるので、しだいに「どこかで読んだな」感が出てきます。著者はそういった先行研究の紹介は省き、実ビジネスでありそうな事例でさまざまなバイアスの解説をしています。

行動経済学の入門書としてはもちろん、類書をいくつか読んでみた人の頭の整理本としても、有用な本ではないでしょうか。Good Job!です。