ミニレビュー
いろはカルタ48句の禅的解釈。いや、48句にかこつけた禅的エッセイです。「禅のいろは」というタイトルから禅の入門書を期待して読んだので、その意味では期待はずれでした。しかし本としては面白く読みました。
「はじめに」では、「我我の生活に欠くべからざる思想は或は〈いろは短歌〉(=カルタのこと)に尽きているかも知れない」という芥川龍之介の言葉(『侏儒の言葉』)を引いて取りかかります。
しかし48句をやっつけた後の「おわりに」では「それにしても、ここまで来てつくづく思うのは、やはり四十八句に統一的な哲学や思想など、読み取りようがないということだ」と嘆息してみせます。
最後に来てそう言われても困るなあと思っていると、そこから、その統一性の無さこそがいろはカルタの精神なのだと持ち上げて、終わる。この「おわりに」の最後まで来て、本の面白さが倍くらいにふくらみました。
うまいなあ、と思った文を引用しておきます。
引用:
要するに、ここに集められた諺たちは、なにか統一的な行動指針を示すのではなく、どう転んでもどれか一句で拾い上げられるとでもいうような、全体として慈悲深い結果論の集合になっているのではあるまいか。一つ一つの言葉に慈悲があるのではなく、一つの歳言を相対化する全体の作りにそれが宿るのである。