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「人口減少経済」の新しい公式―「縮む世界」の発想とシステム


ミニレビュー

2004年のベスト経済書の1つ。

人口問題で難しいのは、非常に確からしいことと、そうでないことがまぜこぜになること。

日本の人口が減ることは確かですが、いつどのくらい減っていくのかは、人口推計(国連や、日本の国立社会保障・人口問題研究所が作成)によって違っています。更に、「縮む」世界における人々の振る舞いの予測には、著者の価値観が大きく作用します。

ですから複数のシナリオを読み比べる必要があるのでしょうし、それがまた面白かったりします。この本はデータが豊富(ただし参考文献などは思い切って省かれています)ですし、著者なりの考察が色々盛り込まれており、大変な労作です。

起-動線的な視点でピックアップするべきは、これからの人口減少経済における価値観の転換を説いている部分(第6章「人口減少経済」への羅針盤)でしょう。簡単にまとめるとこんな話です:
これまでの人口増加経済における日本社会の求心力の源泉は、日本社会が『一貫して国民を経済的に豊かにしてきた』ことであった。『「今日よりも明日は必ず良くなる」という夢』を社会で共有していたので、「国民みんな」で豊かになろうという求心力を保てた。
しかしこれからの人口減少経済ではそうはいかない。安全かつ豊かな日本社会を維持するために、経済成長に代わる求心力の源を探すとすれば、それは「余暇時間」である。なぜなら「余暇時間」は、『人口が減少し日本経済が縮小しても確実に増加し続ける』から。
ところが経済的な豊かさとは違い、「余暇時間」の価値は人それぞれ。これからは「国民みんな」でなく「個人」がそれぞれの価値を追求する社会になるだろう。

なぜ余暇時間が確実に増えると言えるのかについては本を当たってみてください。個人的には、著者の予測通りに進めば、「余暇時間」と「そうでない時間(経済活動をする時間)」とを区別すること自体にあまり意味がなくなるように思います。そもそも「余」とか「暇」とかいうラベルの貼られた「時間」の中に人生の「価値」を見出そうというのも何だか寂しい話で、『「今日よりも明日は必ず余暇時間が増加する」』というのが社会の求心力になるものかな。

……というようなことをいろいろ考えるネタ本として好適。