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「アイ・カンパニー」の時代―キャリアを鍛える。モチベーションを高める


ミニレビュー

個人を株式会社になぞらえて、経営戦略を策定するように「自分創り」をしていこうというのがタイトルの「アイ・カンパニー」の意味。社会人3年目辺りの方がターゲットのようです。同名のセミナーが2003年5月から開講されており、本書はそのプロモーションの一環でもあります。

法人と個人の生き方の間には魅力的な相関があるのは確かで、実は起-動線も当初同じ様なアプローチで行こうかと考えていた時期がありました。企業経営は経営「学」として確立されているかのように見えるのに対し、「生き方学」はバラバラです。ライフプランといっておカネのプランを作ってみたり、とっつきにくいほどココロの話ばかりであったり。

表面的にはうまく対応が付けられるように思いました。理念・ビジョン、自社の強み、市場の分析・・・など、「職業人」としての自分に限定すればかなりよく整理できます。バランスト・スコア・カードの個人版を作るなんていうのも面白いかもしれません。

ただ踏み込んでいくと、「なぞらえる」アプローチの限界みたいなものが見えてきます。たとえば社史(すなわち自分史)を書いて、自らを評価するエクササイズでは

引用:

利益も重要なファクターですが、その時々のモチベーション、充実感、貢献度などを勘案して、自分なりの成長曲線を描いてみてください。

とあります。これは、成功・失敗事例から自社の強みを抽出しているようでもあり、個人向けによく行われる、いわゆる自己分析のようでもあります。自己評価の基準が企業ほど明確にできないので、このような言い方にならざるを得ない。

起-動線が最終的にこの比喩を用いなかったのは、両社の「存在目的」の違いです。企業は、その誕生の前に目的があります。人間はそうではありません。企業はある目的を持って作られた組織ですから、その目的を果たせば、あるいは果たせそうになければ、解散することが出来ます。人間はそうではありません。

自分の意志とは関わりなく生まれてきてしまい、とにもかくにも今ここにある「自分」というものの目的をどう作るか。目的に向けて邁進できる企業と、目的を探すこともまた目的であるかのような個人の人生、目的が見つからなくてもとにかく生を送らなければならない個人の人生の大事な違いが、埋もれてしまうような気がしたのです。

そこに留意した上で読み返してみると、200ページという量、ソフトカバーの装丁、いまなぜ「個人」をひとつの会社と見なすべきかというメッセージ、分かりやすい方法論、具体的なワークシートなど、一冊の本としての網羅性・完成度は高いと感じました。