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光あるうち光の中を歩め


ミニレビュー

知人に「60歳になったら何かの宗教に帰依するのもアリかもと思っている」と言ったら、この本を推薦してくれました。わたしが読んだのは『トルストイ全集〈9〉後期作品集』に収められた中村白葉の訳(こちらの邦題は『光あるうちに光の中を歩め』)でしたが、すでに絶版なので、新潮文庫のものにリンクしています。

「原始キリスト教時代の物語」という副題が添えられています。時はキリスト降誕後100年、場所はキリキヤ(Wikipedia)国。主人公は、裕福な商人を父に持つユリウス。外面的には恵まれた、しかし満たされない人生を送っています。彼には、年若くしてキリスト教に入信し、共同生活を送っているパンフィリウスという友人がいます。人生の重要な局面で交わす二人の対話、そしてユリウスが入信に傾くと決まって現れる「医師」なる人物との対話が、物語の核となっています。

短く、分かりやすく、そして濃いストーリー。すばらしい説得力です。トルストイの作品はもう著作権が切れていることだし、キリスト教団はこれを独自に翻訳して布教のために使ったらいいのに。もっとも個人的には、それほど立派な体系が世の中にあるのであれば、いよいよ迷いがきわまるまでは安心して試行錯誤を続けようという感想を得ましたが。