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コンセプトノート

513. 1行雑談で、言葉を選ぶ力を磨く

語彙の乏しさは誤解を招く

先日「EQとリーダーシップ」というテーマでトレーニングセッションのファシリテーターを務めました。

設計のために、事前に問題意識を聞くアンケートを実施します。それを読み、今回のセッションは荒れ模様になるかなと予想していました。厳しい回答が多かったからです。多くは部下や仲間の言動を批判する内容でした。社会人としての常識に欠けているといわんばかりです。

そんなわけでやや緊張して臨んだのですが、いざ皆さんと顔を合わせてみると、期待はいい方向に裏切られました。活発に話し合われますし、相手への配慮も見受けられます。

この落差は何なのだろうと思いながら1日を終え、振り返りました。考えてみれば、事前の印象と当日の印象が違うことは珍しくありません。事前にアンケートで読むのは、むき出しの言葉です。当日に現場で観るのは、会話です。会話では、声のトーンや表情やしぐさなどの非言語チャネルが使えます。それだけ感情やその奥にある意図を共有しやすいことは、よく知られています。

では、なぜ今回とりわけ落差を感じたのか。匿名の事前アンケートを読み返して感じたのは、問題意識を表現する言葉がやや単調でぶっきらぼうであることです。セッションを終えた今となっては「それが問題と思うならば、もうすこし正確な書きようがあっただろうに」と思ってしまいました。

言葉を選ぶ力もEQのうち

豊富な語彙を持ち適切に選択できる能力は、IQかEQかと言われるとIQ寄りに感じられます。しかし正しい回答は「両方」です。実際、EI理論では、自分や他人の感情を細やかに識別できる(第1ブランチ)だけでなく、豊富で洗練された語彙を用いてそれを表現できる(第3ブランチ)ことも、感情知能の一つとして定義されています。以前のノート(「感情を、どう整えればよいのか」)で紹介したRULERアプローチのEはExpressing(表現)です。

そう考えると、今回のセッションに含めるべきは、問題意識や気持ちを適切な言葉で表現するトレーニングだったのかもしれません。

来たるべき機会に備えて、日常の仕事や生活の中でどんな感情表現のトレーニングができるか、試しに考えてみます。会話はリアルタイムなので難易度が高いですから、やはりメールから始めるのがよさそうです。

テンプレートでないあいさつ文(1行雑談)を入れる

「お疲れ様です。いつもお世話になっております。」といった定型文を廃します。手紙だって時候のあいさつは定型文ですから、これが悪いこととは思いません。ただ、すべての言葉を選ぶエクササイズとして、一定期間テンプレートを使わないことは意味があるでしょう。
ちなみにわたしはけっこう言葉を額面通りに受け取るクセがあるので、朝一番のすがすがしい時間帯に「お疲れ様」と言われたり、初対面の相手に「いつもお世話になっております」と言われると、定型文と知りつつも何かモヤッとしたものがよぎってしまいます。

そんな定型文を廃する代わり、「1行雑談」を入れます。天気の話とか、ニュースの話とか。1行というのは比喩表現で、実際には1段落くらいになることもありますが……。

実際、EQトレーニングの冒頭では参加者同士で雑談をしてもらうことがあります。ただの雑談を成立させるために、われわれがいかに感情知能を使いまくっているかをあとから解説し、納得してもらうためです。そのメール版という感じです。

このエクササイズは、自分自身でもここ数年試みています。いろいろ面白い発見がありました。 まず、あいさつ文を好む人と好まない人は比較的はっきり分かれます。3通ほどやりとりをして雑談がスルーされるようなら、以降は控えます(すぐ本題に入る人が冷たい人というわけではありません。単に、その人にとってメールはそういうチャネルではないということです)。

必ず反応してくれる人もいます。自分の話を追加して返してくれる人もいます。そういう人は、よい練習相手になります。忙しいときは軽く天気の話で済ませたり、やや余裕があるときはちょっと相手の会社のホームページを覗いて話題を探したりと、お互いを慮ったり言葉を選んだりするトレーニングになります。

感情表現を1つは入れる

1行雑談以外のところでも、相手の気持ちに配慮したり、自分の気持ちを吐露する一文を加えてみます。仕事のメールでは割と難しい挑戦ですが、効果の高さを考えると、挑戦しがいのあるエクササイズだと思います。

手本として、読んでいて「うまいなあ」と感じられるメールの書き手を探してみます。難しい言葉や感情的な言葉を使っていないのに、励ましてくれた/戒めてくれたと感じられる、配慮に富んだ文章の書き手がいると思います。そんな人から学びましょう。 たとえば、ちょっとしたやりとりの最後に感謝してくれる人がいます。感謝し慣れている人は、言葉のバリエーションも豊かです。「ありがとうございます」「感謝します」といった直接的な表現はもちろん「今日は早く帰れそうです」「今度お返ししますね」などなど。

注意すべきは、気持ちの表現は人柄と結びついているので、単純なコピーが効かないことです。たとえばビジネスのメールに♪や(^^)を含めても違和感を感じさせない書き手もいますが、それを他人がコピーしても同じ効果は期待できません。

※怒り・不安・悲しみなどネガティブな感情を伝えるのはかなり注意が必要なので稿を改めて考えてみたいと思います。