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コンセプトノート

221. 集中して分散せよ

お金はいくらでも分散投資できるが、時間は…

長期投資は「分散」が王道と言われています。例えば、東証一部の時価総額に連動したETFという商品は、今日18万円くらいで購入できます。この18万円は東証一部に上場している1800弱の企業に分散投資されます。最も時価総額が大きいトヨタ株には約9千円(5%)分、最も時価総額が最も小さい企業にも約1円が投資されることになります。

これは便利な方法で、基本的には何も知る必要も考える必要もありません。

しかしこのような分散は「お金」だからできる話。個人が持っているもうひとつの重要な資源である「時間」について考えてみると、「市場に乗っかる」ような分散ができないのは明らかです。何らかのフォーカスが必要なのです。

おそらく世界で最も有名な(そして実績を残している)投資家のウォーレン・バフェット氏は、「フォーカス投資」というスタイルで知られています。フォーカス投資とは、研究し尽くした数少ない銘柄に集中投資をするやり方。氏は分散投資についてこのように述べています。

「分散することは、無知な人を守ることにはなります」とバフェットは説明する。「市場全体と比べて、よくないことが起こらないようにしたいのであれば、すべてを買うべきでしょう。そのやり方は間違ってはいません。事業を分析する術のない人にとっては、まったく合理的な手法です」

『株で富を築くバフェットの法則』(p216)

わたし自身は、バフェット氏の分類でいう「無知な人」ですので、上記の「すべてを買う」アプローチを好んでいます。しかし我々が投資をしているのは、「お金」だけではありません。我々は、時間を投じて人生の満足を得ようとする、「時間の投資家」でもあります。

バフェット氏の投資スタイルを、個人の意志決定に応用する

やみくもに分散できない対象に対する投資はどうあるべきかを考えたとき、バフェット氏の投資スタンスは個人の仕事のポートフォリオ(ここでいう仕事は、報酬を貰う仕事だけを意味していません)作りを考える上で大いに役立つのではないでしょうか。

フォーカス投資というスタイルについて、『株で富を築くバフェットの法則』という書籍から引用します。

  1. 強力な経営陣によって運営される優れた企業に、投資を集中せよ
  2. 銘柄数は、本当に理解できる企業だけに絞れ。10〜20が望ましい。20を超える銘柄に投資するのは、墓穴を掘るようなものだ 
  3. 優れた企業の中でも、特に優れたところに、多くの資金を配分せよ
  4. 長期で考えよ。最低でも5〜10年の期間で捉えよ
  5. 価格が変動しても、持ち続けよ

フォーカス投資のゴールデン・ルール*ListFreak

これを、個人が時間をどう配分すべきかというルールに置き換えてみます。

  1. 情熱を傾けられ、強みが発揮でき、価値が認められるテーマ(以下、Aテーマ)に、時間投資を集中せよ
  2. 本当のAテーマに絞れ。5〜10が望ましい。10を超えるテーマに時間を投資するのは、墓穴を掘るようなものだ
  3. Aテーマの中でも、特Aといえるテーマに、多くの時間を配分せよ
  4. 長期で考えよ。最低でも5〜10年の期間で捉えよ
  5. 結果が伴わなくても、やり続けよ

『情熱を傾けられ、強みが発揮でき、価値が認められる』テーマというのは、以前のノート『「求められる人材」から「活躍する人材」へ』に書いた “Passion + Skill + Value” から取りました。

「そんなテーマ、そうそう見つかるものか」と思われますよね。

実際その通りでしょう。だからこそ必死になって探さないといけないし、探し当てたら、それにエネルギーを集中させるべきだ。バフェット流の投資スタイルを時間投資に置き換えれば、そういうことになります。

「投資家として目指すべきことは、自分で容易に理解できる事業の中で、事業の利益が5年先、10年先、さらに20年後も大きく伸びると確信できる企業の一部を、まともな価格で購入するという単純なことです。経験を積めば、この条件を満たす企業はほんの一握りだとわかってきます。だからこそ、買うべき企業をみつけたら大量に株を買うべきなのです

(同上、裏表紙折り返しより、太字は引用者による)

行動こそがAテーマ探しである

となると、Aテーマが見つかるまではエネルギーを温存しておいた方がよいのでしょうか。ここはお金の投資と時間の投資との違いを考えなければなりません。

お金の投資では、いくら研究しても実際に資金を投じなければ結果が出ません。そして成果はお金でしか測られません。ですから投資先の選別が重要になります。

 私自身のこれまでの経験と、今までさまざまな企業を見てきたことから導き出した私の結論は、経営業績(経済的収益の観点からみて)で良い結果を出すためには、乗り込んだボート(ビジネス)をいかにうまく漕ぐかということよりも、どのボートに乗り込むかということの方がはるかに重要だということです

『バフェットからの手紙』(p87)

しかし時間の投資では、研究するプロセスそのものが(しばしばそれこそが)楽しく、成果の一部になります。そして実際に身を投じてみないと、それがAテーマであるかどうかは分からない。そのような特性があると思います。

個人的には、漠然としていてもいいからテーマを掲げたほうがよいと思います。「情報は発信する人に集まる」といいますが、同じロジックで「テーマは、掲げることで深まる」と思うので。