藤原和博さんの話からもう一題。
講演で「どうしてそんなに身軽なのか(注1)」という質問に対しての回答を幾つか挙げておられたのですが、印象に残ったのは
(1) 住宅ローンがないこと、そして
(2) したいことがあるのなら自分を安売りすること、
でした。
具体的には、30歳のときにリクルート社(以下R社)の社内でのキャリアアップを自ら放棄し、基本給は上げてくれなくていいと宣言したとのことです。その代わり自分のやりたいことをやらせてくれと。
多少の脚色はあるかもしれませんが、R社のようにサイズも大きくて金銭的にも報われる企業にいて、いわゆる出世を目指さないという選択はとても勇気が要ったであろうと感じました。
昇進を目的としないというとノーベル化学賞の田中さんが連想されますが、測定機器メーカーでエンジニアとして専門を極めていこうという決断と、(a) R社のようなイケイケ系(失礼)の会社で、(b) バブル崩壊前の右肩上がりの時代に、(c) 専門性を高めるというよりはどんどん新しい事をしたいからという理由で、キャリアの階段を上らないという決断とを比べれば、後者の方が大胆ではないでしょうか。
曰く、新しいことをしようと思っているのに給料も役職も上げて欲しい、では誰も話を聞いてくれない。したいことがあるんだったら自分を安売りしてでもそれを掴み、やってしまうこと。自分のやりたいことに2年間も没頭してやれば専門家として認めてもらえるようになる。
ここまで読まれると、「安売り」というのは聞き手(読み手)の注意を引くための藤原流レトリックであり、強い自信と楽観主義を裏返して表現しているのだということがお分かりいただけると思います。
ではどうしてそんな時代にそんなことを思ったのか。それには彼が大学生のとき知ったピーターの法則が関係しています。これについては回を改めて。(追記:こちらに書きました)
(注1) 経歴についてはこちらを参照。リクルート社の営業からスタートしてマルチメディア、出版事業を経由して自ら提案・創設したフェロー制度の第一号となり、2003年からは公立中学校の校長先生になろうとしています。