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コンセプトノート

167. 脳科学からみた「今を生きよ」

よい意思決定は、理論だけからは導けず、感情の助けを必要とする。
それこそ「直感的に」は頷ける話ですが、脳の研究からもそれをサポートする結果が出ています。以下、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー2006年4月号に寄りかかりながら紹介していきましょう。

最初に用語解説。脳というのは三層構造で、内側からこんな感じになっています。
1. 生命維持装置
2. 大脳辺縁系 ― 俗に「動物脳」とも。主に感情を司ります。
3. 大脳新皮質 ― 俗に「人間脳」とも。主に思考を司ります。

意思決定には感情と理性の対話が不可欠

意思決定が100パーセント合理的に下せるならば、意思決定は大脳新皮質の仕事であり、大脳辺縁系は関与しないほうがいいことになります。ところが実際はそうではない。

ダマジオの研究グループは(略)、脳の損傷によって感情と意思決定力が欠落した患者を五〇人以上調べた。その結果、大脳辺縁系(感情を育むうえで重要な役割を果たす古い脳構造の集合)に損傷を受けた患者は、うまく意思決定できないことを発見した。つまり、意思決定には感情と理性の対話が不可欠であり、そこには何か重要な営みが存在していることがわかってきたのだ。(p64)

感情を司る大脳辺縁系、あるいはそこからの信号を処理する前頭前野(大脳新皮質の一部)に損傷を受けると、感情を解釈できなくなる。そうすると、自分にとって何が最善なのかを決められなくなってしまう、ということのようです。

別の箇所では、『意思の力とは、危険と報酬を長期的な視点で判断する力』であるとしています。報酬を求めたり危険への注意を喚起するのは動物脳で、長期的な視点で判断をするのは前頭前野。だから両者は密接に関係しています。

「期待」がすでに報酬である

さらに興味深いのは、報酬への期待が報酬そのものになり得るという、人間独自の特性。

報酬系、嫌悪系の脳回路は、人間でも動物でも大差ないが、ただ人間の場合、ほとんどの動物と異なり、目の前の快楽を追いかけた後の結果を予想できる。また、将来経験するかもしれない快楽を想像しただけで快楽を得られる。(p65)

これまで経済学者は、労働によって金を稼ぐのは、何かを購入するためであり、それに価値を見出す、専門的に言えば「効用」が得られるからだと考えてきた。しかし、神経科学者たちは、金銭への「期待」だけでも報酬になることを明らかにしている。(p66)

期待のエンジンは側座核といって、『「あれがほしい」という原始的な信号を発信する部位』。金を受け取ることになった人の脳を調べたところ、下記のようなことが分かったそうです。

側座核は受け取れるであろう金額が大きいほど活性化した。しかし、実際に金を受け取った時には、もはや活性化していなかった。つまり、側座核を活性化したのは、報酬への期待であって、報酬そのものではなかったということだ。(p67)

これらの知見は、プロセスを楽しめ、今を生きよ、という言葉を裏書きするものだと感じました。

もし結果が報われなかったとしても、
抱いた期待の意味が失われたわけではない。
なぜなら、期待を抱くことで既に報酬を得たのだから。

期待を抱けることが報酬なのだとしたら、
高い目標を掲げ、存分に期待しよう。