カテゴリー
コンセプトノート

016. 職人

先日ご紹介した「起-動線的人々」で、高橋さんが自分を「保険屋たかはし」とラベリングしている戦術をご紹介しました。生命保険のセールスという、職業上の自分のアイデンティティを一言で表していて見事です。

「○○生命」の高橋さんは企業の論理を優先しそうな気がしますが、「保険屋」の高橋さんは私の立場に立って考えてくれそうな気がします。例えば○○生命が倒産したら、企業の看板を下ろした元「○○生命」の高橋さんは知らんぷりを決め込むような気がします。でも「保険屋」の高橋さんだったら、解約のタイミングや乗り換えのアドバイスなど、保険のプロフェッショナルとしてベストを尽くしてくれそうな気がします。

そういう期待を抱かせる称号を自らに冠する、会社の名前を外して自分を職人(職のプロ)として表現するということは、非常に勇気の要ることです。

高橋さんの取材の数日後に出席した友人の結婚式で、これと対照的なシーンに出会いました。挨拶される方がいずれも「○○の鈴木です」のように会社名を自分の属性として使っているのです。新郎も新婦も数万人規模の大企業にお勤めでしたので会社が一つの社会のようなものでしょうし、会社の繋がりで結婚式に呼ばれた方々なのでしょうから当然といえば当然でしょう。

高橋さんに企業人ではなく職人としての矜持があったように、巨大企業の一員として日本を牽引している企業人としての矜持があったのでは、と考えることもできます。実際、そのようにお見受けした方もいました。ただ逆にそういう方はどの企業でもやっていけそうな自信と迫力がある。一方で、会社の歴史なんか語りだしちゃう方もいて、明日会社が無くなったらとたんにヘナチョコおじさんになっちゃいそうだなあこの人、と思ってしまいました。失礼千万ながら。話題が「会社」なんですよね。「仕事」じゃなくて。

そもそも企業人としての矜持は、職人として企業に貢献しているという自信の上に乗せられるべきものです。

「職人」というと伝統工芸を継承している人や大工さんをパッと思い浮かべてしまいますが、特技を売ってお金を貰うと考えればサラリーマンだって同じようなものです。企業年金もポータブルになってきましたから「職」のポータビリティも上げていきましょう。あなたは何の「職人」さんですか?