イェール大学の感情教育
EI(感情的知能)理論を教育の場で実践している試みに、米イェール大学のRULERというプログラムがあると教えてもらいました。調べてみると、EQ(感情知能)の4ブランチを下敷きに、RULERという5つのスキルを定義しています(1)。4ブランチはかなり根源的なまでに還元されているので、すこしアウトプット(行動)寄りのスキルとして定義し直したという印象です。
- Recognizing(認知)… 自分や他人の感情を読む
- Understanding(理解)… 感情の原因や推移を考える
- Labeling(識別)… 感情を表す適切な言葉を選ぶ
- Expressing(表現)… 目的に合った感情表現をする
- Regulating(調整)… 感情を整えて行動を選ぶ
感情的知能を高めるRULERアプローチ – *ListFreak
使っているワークシートなどを見ていると、わたしが大人向けに実施しているEQトレーニングとけっこう似通っています。感情のマネジメントは一生もののスキルだという思いを新たにしました。
感情の調整はPRIME
RULERの中でイメージしづらいのが最後のR(egulation)、つまり調整・制御ではないでしょうか。4ブランチ理論でも、第4ブランチは「感情の調整」(Management of emotions)という、ややあいまいな領域になっています。 感情を調整するというと、なんとなく「落ち着く」と同義のように感じられます。でもここでいう調整には、たとえば必要に応じて心を昂ぶらせることも入ります。
では、調整の方法には何種類あるのか。上述のRULERについて書かれていた文章を見ていくと、PRIMEという別の頭字語が目にとまりました:
- Prevent(予防):ある感情状態に陥らないようにする
- Reduce(弱化):ある感情を弱める
- Initiate(惹起):ある感情を自ら起こす
- Maintain(維持):ある感情を保つ
- Enhance(強化):ある感情を強める
感情を整える5つの方向性(PRIME) – *ListFreak
こうやって目にしてみると当たり前のリストのように思えます。しかし実際には、いざ感情を調整しようと思っても、感情は目に見えないのでなかなか調整のしようがありません。このように、押し引きできるレバーが何本あるかを定義してくれると、考えるとっかかりができてよいですね。
感情の調整戦略を練る
PRIMEのリストを眺めていると、Initiate(惹起)はあってもTerminate(停止)が無いことに気づきます。たしかに、湧いてしまった感情をいきなり無くすことはできません。
その観点からは、Prevent(予防)が気になります。感じないようにするということでしょうか。それはかなり特殊な修行ですし、感情を無くすことが感情教育の目的とも思えません。
実際には、望ましくない感情の状態に陥らないように先手を打つという意味合いのようです。書籍(2)には例として、授業で不安を感じやすい人が予習をするといった行動が挙げられていました。
われわれは心の動きに関していろいろな改善課題を持っています。怒りやすい、緊張しやすい、不安になりやすい、やる気が出ない、自信を持てない、引っ込み思案、押しつけがましい、流されやすい、などなど。PRIMEは、課題解決のための戦略を練る材料になりそうです。
たとえば激昂しやすい(強い怒りを感じやすい)人は、予防や弱化に重点を置いた、次のような処方を組み合わせることができます。
- Prevent(予防):激昂してしまいがちな状況を調べ、そういう状況になる回数そのものを減らす。
- Reduce(弱化):怒りを静める方法を学ぶ。
- Initiate(惹起)/Maintain(維持)/Enhance(強化):怒りの代わりに建設的な感情を引き起こし、それを維持・強化する方法を学ぶ。
逆に引っ込み思案の人は、ポジティブな感情の惹起や強化に重点を置いた改善計画を練ることができるでしょう。
(1) “Rivers, S. E., & Brackett, M. A. (2011). Achieving standards in the English language arts (and more) using The RULER Approach to Social and Emotional Learning. Reading and Writing Quarterly, 27, 75-100.”
(2) ”Creating Emotionally Literate Classrooms: An Introduction to the Ruler Approach to Social and Emotional Learning”