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コンセプトノート

766. 創造的な解は、玄人には非現実的で素人には合理的

マネジャーは大変だ

先日、ある組織開発サービスの企画会議に参加させていただきました。守秘義務に抵触しない範囲で概要を説明すると、おおよそこんなイメージです。

まずメンバーはアンケートに回答します。それに基づいて組織の傾向が分析され、マネジャーに提示されます。マネジャーはそのような傾向が生じている原因を推察し、必要に応じて改善計画を立て、実行に移します。特色は、考える材料の豊富さ。原因仮説を立てるためのヒント集や「やるべきことはわかったけど、自分のスタイルでは難しい」と感じる困難を克服する工夫などが盛り込まれていました。

充実したサービスだと思いつつ、マネジャーが参照すべきデータの多さや解釈の難しさなどを考えると、単純に「大変そうだ」という感想が浮かんでしまいました。

ストレスチェック制度や一連の働き方改革は、事業者に相応の行動を要求します。そして実際にそれを担うのは管理職です。たとえば3年ほど前に設けられたストレスチェック制度では、各人の回答は管理職しかアクセスできず、したがって改善案も管理職が考案します。もう一つ例を挙げると、先日会った管理職の知人は休日なのに会社支給のタブレットをいじっていました。部下が休日に出勤するには彼の事前許可が必要だが、申請は当日の昼まで可能。だから休日にも業務端末を開かなければならない。と話していました。

管理職の負荷は量的に増えているだけでなく、質的に変化してきているとも感じます。管理職向けのリーダーシップトレーニングなどの現場では、以前よりも部下との接触に気を遣うようになったという古参管理職の声をよく聞きます。

こういった事象の良し悪しや是非はいったん置きます。ストレスチェックの結果は個人情報なので管理職にアクセスを限定するのは理に適っているでしょう。休日出勤はしかるべく管理されるべきでしょう。古参管理職はこれまでがダメすぎたのかもしれません。ここでわたしが取り上げたいのは、さまざまな歪みの是正がされようとしている帰結として、管理職の負荷が高まっているのではないかという感覚です。

ダブル・シャムロック型組織

1990年代の初頭だと思いますが、イギリスの経営思想家チャールズ・ハンディは、これからの組織はシャムロック型になるだろうと述べていました。シャムロックとはクローバーを含む三つ葉の草の総称で、組織の構成要員はシャムロックのごとく次の三つにわかれるだろうという意味です。
チャールズ・ハンディ 『ビジネスマン 価値逆転の時代』(阪急コミュニケーションズ、1994年)

  • 組織中枢部の要員
  • 外部の専門家
  • 勤務時間に伸縮性を求める働き手

それぞれ正社員、コンサルタントや下請け業者、派遣社員と捉えれば、現代の日本企業の多くもシャムロック型と呼べそうです。しかし考えてみると、「正社員」自身も似たような三つの葉に分けることが可能です。すなわち

  • マネジメント職 …… 経営層およびその予備軍である管理職
  • プロフェッショナル職 …… 専門的な職能で組織に貢献する人
  • 一般職 …… 入社間もない人、その他

三つ葉の一つ(中枢部)の中に三つ葉が存在している、いわば「ダブル・シャムロック」型組織とでも呼べる構造の中で、「組織中枢部の要員」の葉の「マネジメント職」の葉に相当する一部の人たちに、組織全体を支える多くの仕事が集中しているように思えるのです。

創造的な解は、玄人には非現実的で素人には合理的

そういったひずみが多くの組織で起こっているからこそ、『HOLACRACY 役職をなくし生産性を上げるまったく新しい組織マネジメント』『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』といった組織論が注目されるのだと思います。

こういった本を読むのは目的思考のエクササイズになると感じました。創造的な解(クリエイティブ・チョイス)というものは「玄人には非現実的で素人には合理的」に感じられるのだろうと思います。

自分の経験に照らして「ふつうに」読んでいくと、読むそばから疑問や反論がわき起こります。ただそれは、既存の組織からの変革を想定して読んでしまうからのようです。

初心で、たとえば新社会人になりきって読むことができれば、それほど違和感を感じないだろうと思いました。わざわざ組織をつくって仕事をする目的は何か。その組織をマネジメントするにはどんな機能が必要か。使えるツールは、考慮すべき制約は何か。そのようにまっすぐ考え下ろしていけば、合理的なアプローチだと思えます。

現状にひずみがあるのなら、組織マネジメントのあり方の大きな変化は、これから起きると考えます。なぜなら、組織におけるマネジメントのひずみ・業界における商慣習のゆがみ・社会における富の偏りなど、それに関わる多くの人が理不尽だと思う状況は、長い目で見れば是正されていくと考えているからです。その組織や社会が民主主義を信じている限りにおいて(したがって独裁企業や独裁国家では事情が変わってきます)。

そのような是正がいつ起きるか、何が起きるか(上述の本のようなあり方か別のあり方か)、どうやって起きるか(徐々に起きるのか革命的に破壊・再生されるか)は、わかりません。でも、起きるか起きないかといえば起きると考えますし、小さな変化であっても起こしていきたいと考えています。そういったひずみを感じている一人として。