共感にまつわる混乱
「共感」という言葉の意味合いをよく理解したいと思い、『共感の社会神経科学』に目を通してみました。
用語の混乱は広く了解されていることがらのようです。第1章で、社会心理学者チャールズ・ダニエル・バトソン博士は、共感という用語が次の2つの質問に対する答えとして用いられているからだと述べています。
質問1:他者が考えていることや感じていることを、人はどうやって知ることができるのか?
質問2:他者の苦しみに対して、人が思いやりと気づかいをもって反応するのは何によるものなのか?
さらに、実際の用いられ方を8通りの概念に分類しています。
- 他者の内的状態(思考と感情を含めて)を知ること
- 観察対象である他者と、同じ姿勢になる、または、同じ神経的反応が生じること
- 他者が感じているような感情を抱くようになること
- 自分自身が他者の立場にいるところを直観あるいは投影すること
- 他者がどのように考えたり感じたりしているかを想像すること
- もし相手の立場にあったとしたら自分はどのように考えたり感じたりするかを想像すること
- 他者が苦しんでいるのを見て苦痛を感じること
- 苦しんでいる他者に対する感情を抱くこと
共感とよばれる8つの現象 – *ListFreak
なるほど、これでは混乱するわけです。
バトソン博士はここから2つの問いと8つの答えをつなげていきます。さらに訳者の岡田 顕宏博士も、「訳者あとがき」で整理を試みてくれています。
共感の全体像
それらによれば、大きく分けて、質問1には概念1から6が、質問2には概念7と8が、それぞれ関連づけられます。
質問1にダイレクトに関連づけられるのが、概念1(他者の内的状態を知る)。概念2から6までは、ごく大まかに言えば、結果として概念1につながる部分解のような位置づけです。
質問2に関連づけられるのは、概念7(個人的苦悩。他者が苦しんでいるのを見て苦悩を感じる)と概念8(同情。相手に向けられた感情をいだく)です。
ここまでまとまると、「共感」の全体像が見えてきます。さまざまな過程(概念2~6)を経て他者の内的状態を知る(概念1)こと。その結果として自分自身が苦しんだり(概念7)、相手に同情や慈悲の感情を抱く(概念8)こと。この一連のプロセスのパーツがすべて「共感」と呼ばれているのです。
親・上司・先輩・友人、立場はどうあれ、他者の意志決定を支援するためには共感能力は欠かせません。その興味からは、まず「他者の内的状態を知る」力(概念1)を磨くべきでしょう。その知覚がなければ、先はありません。
他者の内的状態を知る道のり
というわけで概念1の構成要素を見ていきます。他者の内的状態を知るに至る道のりとして、互いに補い合うような2つの理論が提唱されています。
一つは「理論説」。人は、他者がどのように考えたり感じたりしているかを想像する(他者想像=概念5)ことで、その思考や感情を知るという理論です。
もう一つは「シミュレーション説」。他者が感じているのと同じ情動を感じる(概念3)ことによって、その内的状態を自らの内部に再現します。それを生み出すのが、他者を模倣する(概念2)、あるいは他者の置かれている状況に自分自身がいるところを想像する(投影・直観=概念4・自己想像=概念6)といった概念です。
やや不正確になるのを承知で覚えやすくまとめれば、理論説が「頭で考える」、シミュレーション説が「心で感じる」という感じでしょうか。あるいは「他人事として想像する」対「自分事としてなりきる」と言えるかもしれません。
〈「共感力を磨く(2)」に続く〉