『ビジネスマン価値逆転の時代―組織とライフスタイル創り直せ』の中で、チャールズ・ハンディは、以下の2つの予測をしています。
1. 生涯の労働時間が大きく減少する
2. 個人の組織への依存度が下がる
さらに、寿命が延びて健康な老年時代が長くなっていることも併せて考えれば、彼の『われわれはだれしも、生涯の大部分を有給の仕事に就いて過ごすものだと決めてかかるような態度は、社会通念としてもはや通用しなくなる。』という予測は説得力があります。
「あなたは、なにをなさっていますか」という問いかけは、もはや「あなたのお仕事は、どういうものですか」という問いかけではなく、「あなたは、どんなふうに時間を使っていらっしゃるんですか」という意味なのである。仕事と労働は、いまではその意味もパターンも以前とは変わってしまっている。
チャールズ・ハンディ 『ビジネスマン価値逆転の時代―組織とライフスタイル創り直せ』
これからは一人ひとりが仕事のポートフォリオ(組み合わせ、リスト)を考えることができるようになります。引き続き同じ本から引用すると、このポートフォリオは以下の5つの仕事からなります。
◆有給の仕事
├賃金仕事(提供した時間の対価として金銭を得る)
└報酬仕事(仕事の結果の対価として金銭を得る)
◆無給の仕事
├家内仕事(家事)
├奉仕活動(家庭の外の無給活動)
└研究活動(スポーツ・技能のトレーニングや読書など)
おおかたの者にとって、これまで仕事のポートフォリオには、たった一つしか項目がなかった。少なくとも、男性の場合はそうである。その一つきりの項目とは、つまり本人の携わってきた”職務”であり、もっと仰々しい言い方をすれば、それが”キャリア”ということになる。
同上
このことは、よく考えてみれば危険な戦略と言うべきだった。いまどき、手持ちの金をそっくり一つの資産に投入するような者はまずいないだろうが、こと生活に関しては、それと同じことをやってきた者が少なくないのである。
「そんなことを言ったって、『賃金仕事』に90%の時間とエネルギーを費やさなかったら生活できないよ」というのが多くの方の感想でしょう。ハンディ氏も、正社員として企業に勤める人の仕事はますますハードになっていく(その代わり金銭の見返りは良く、労働期間も短い)と予測しています(他にどのようなワークスタイルが有り得るかは、ミニ書評に簡単にまとめました)。
しかし長期で考えれば、この「仕事のポートフォリオ」という考え方は極めて重要です。なぜなら「無給の仕事」と「有給の仕事」とは実は渾然としており、無給の仕事からしばしば有給の仕事が生まれるからです。
いざ組織の外で働きだしたとき、有給の仕事に転換できそうな仕事がポートフォリオの中にあるかどうか。
今はないとしても、組織を離れるときまでに作るには何をすべきか。
リタイヤメントプランというと、通常は60歳なり65歳の時点で、残りの人生を無給で暮らしていけるだけの金融資産のポートフォリオを作り上げることを意味しています。しかし、それが目的化してしまうと、ヒマな老年期を確保するためだけに多くの犠牲を払うことになりかねません。
発想を転換すれば、60歳なり65歳までの職業人生を「仕事のポートフォリオ作り」と捉えるというリタイヤメントプランもあります。組織の外に出ても有給の仕事ができるように意識をして仕事のポートフォリオを組んでいく。そのために、老後のために蓄えておくべき(と考えていた)お金や、それを稼ぐために費やすべき時間を「今の自分」に投資する必要があるかもしれません。
これらの両方を組み合わせると、生活のポートフォリオは
・○円/月×年間分の生活資金
・○円/月くらい稼げる力
の和として捉えることができます。
この計算をしている時点では、見かけ上「120万円の預金」と「10万円/月稼ぐ力」は等価です。60歳を過ぎて毎月10万円を稼ぐよりは、いま頑張って120万円貯めておく方が易しいと感じる方も多いでしょう。
しかし、現預金は物価が上がると目減りします。インフレ耐性を高めるために金融資産の何割かを株などの資産に振り分けるのが定石ですが、それでも目減りはしますし、リスクも高まります。一方、仕事の賃金・報酬は物価に(少し遅れて、ではありますが)連動するので、目減りすることはありません。
そしてなにより、もし理想的な仕事のポートフォリオが組めていれば、金銭的な見返りは楽しんで取り組んだ仕事の「結果」であり、「目的」ではありません。
そのために今できることは何か。好きなことを強みに転化し、それを核にした仕事のポートフォリオを考え、実際に作り始めてみることでしょう。うまくいけばリタイヤメントプランがライフプランそのものになりますから、そもそも60歳まで待つ必要がなくなります。