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コンセプトノート

618. 世の中はオールリンピック

自己肯定感は他者への敬意から

水島 広子『自己肯定感、持っていますか?』を読みました。本書で著者は、「他人をリスペクトすれば自己肯定感が高まる」という逆説的な主張をしています。逆説的と書いたのは、「自己肯定感が高くなれば相手をリスペクトする余裕が生まれる」と考えるのがふつうだからです(もちろん、著者はふつうのルートを否定しているわけではありません)。結果的にはとても納得させられ、いろんなことを考える材料をもらいました。ただしすべての学びを書き留めていくと長くなるので、今回は自己肯定感ではなく他人をリスペクトするという点に絞ってノートを書きます。

本書でいうリスペクトとは、「あの人はすごい成果を挙げたから尊敬する」といった条件付きの尊敬ではありません。条件を付けてしまうと、成果が挙げられなければ尊敬に値しないということになってしまいます。成果が上がらなかったのには、様々な事情があるかもしれません。

様々な事情やプロセスを知らずに結果だけで評価することの危うさを、著者は鮮やかな喩えで説明してくれていました。

 たとえば、パラリンピック。(略)成績だけを見れば、身体障がいのない人たちのオリンピックに比べて「成績が悪い」という評価になるでしょう。しかし、そんな「評価」にとらわれる人がいるでしょうか。むしろ、「逆境の中、本当に頑張っている」とリスペクトする人が多いと思います。このように、パラリンピックの場合は身体的な障がいなど、「様々な事情」が見えやすいでしょう。

事情を知れば、評価も変わります。しかしここで重要なのは、相手の事情を完全に把握してから評価しようということではありません。そもそも評価をせず、相手の「ありのまま」を受け入れて敬意を払おうということです。

著者は、他人をリスペクトするための原則を5か条にまとめて解説を加えています。詳細は本書にゆずり、要約だけ紹介しておきましょう。

  1. お互いの「領域」を守る ~ 人には様々な「事情」があることを忘れず、その人の「ありのまま」を尊重する。「決めつけ」は相手の領域を侵すこと。
  2. 「なるほど」の瞬間を積み重ねる ~ 決めつけないために、話をよくよく聴く。善悪の判断から離れ、真剣に、「なるほど」と思えるまで、聴く。
  3. 人を変えようとするのはやめる ~ 人は、準備ができたタイミングで自ら変わる。「今は、これでよい」と、ありのままを受け入れる。
  4. リスペクトを示す話し方をする ~ 「私」を主語にして「自分の領域」の中で話す。自分のありのままを受け入れる勇気を持ち、自分の気持ちを伝える。
  5. 自分が下した「評価」にとらわれない ~ 「評価」は、今の自分による一時的・主観的なもの。それをもとに人を決めつけない。

他人をリスペクトするための5つの原則*ListFreak

世の中はオールリンピック

パラリンピックの「パラ」は、最初「Paraplegia(対まひ者)」だったそうです。参加者のバラエティや規模が広がり、IOC公認となるにあたって「Parallel」に置き換えられたとのこと。

Parallel(並行の)という言葉が示唆するように、スポーツでは、オリンピックとパラリンピックは交わることがありません。しかし日常の仕事や生活では、外からは見えないだけで、「様々な事情」を抱えた人たちが一緒に仕事をしたり暮らしたりしています。ここでいう「様々な事情」とは、生得的な条件(気質や能力)、生育環境や経験、そして現在の状況などなど、言動に影響を与える要素のすべてです。いうなれば、世の中はオール・リンピックなのです。

他人のリスペクトが自己肯定感を高めるメカニズムについては稿を改めて紹介します。まずは「評価」へとつながる情動を観察しつつ、リスペクトの練習をしてみようと思います。