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コンセプトノート

092. フィードフォワード / Feedforward

川ぞいを歩いていた二人の僧が、結婚衣装を着て泣いている若い女性に出会いました。

結婚式に出るためにこの川を渡らなければならないのに、この衣装を台無しにしてしまいそうで怖くて渡れないのだと言います。

かわいそうに思った一人の僧は彼女を抱き上げて川を渡してあげました。

それを見ていたもう一人の僧は言いました。「我々は女人に触れることすら許されていないのに、抱いたなんて!とんでもない掟破りだ!」

それから僧院に帰るまで、ひとりはずっと相方を非難し続け、もうひとりは沈黙を守って暖かい日差しや鳥のさえずりを楽しんでいました。

その夜のこと。眠っていた僧は突然揺すり起こされました。
「よくも女人を抱くなんてことができたもんだな!君は罪を犯したんだぞ!」
「…女人?」
「覚えてないのか?今日君が抱き上げて川を渡してやっただろう」
「ああ、そのことか」僧は笑って言いました。
「わたしが彼女に触れたのは川を渡す間だけだった。君はあれからずっと彼女を抱いたまま僧院に持ち帰ってしまったようだね」

FASTCOMPANY誌のコラム「川に置いていけ」の中のエピソードを一部訳してみました。

我々の仕事では「フィードバック」は欠かせない要素です。ところが往々にして、それが「過去の過ちの指摘」に留まり、「どうやって改善するか」まで発展していないと著者は指摘し、こう問いかけています。

『最近受けた(仕事のミスばかりを指摘された類の)フィードバックを思い出してみてください。どんな気持ちになりましたか?人間関係が改善しましたか?ハッとするような学びがありましたか?』

自分の成長に資すると思えばこそ、痛い指摘も甘んじて受けることができます。問題の解決にも、何かの創造にもつながらないのであれば、それは「フィードバック」ではなくただの批判の類であり、した方にもされた方にもわだかまりが残るだけです。

著者はフィードフォワード(Feedforward)というエクササイズを薦めています。

『チーム内ではお互いに、将来に関する示唆を求め、そのアイデアに耳を傾け、サンキューとだけ言う。過去のことを持ち出すことは一切許されない。』

というのがそのルールです。

これは有効そうですね。そもそもフィードバックは

  1. 過去の行動に関する指摘を受ける
  2. 改善点・解決策を探す
  3. 次の行動に活かす

というようなループを形成して初めて意味があるものですが、「ちょっとこないだの仕事のフィードバックをしたいんだけど」と言うとき(言われるとき)、往々にしてステップ1で留まり、2と3が受け手に任されてしまいます。

フィードフォワードはステップ1をすっ飛ばしてステップ2へのヒントだけをどんどん提供し合おうということですよね。相手が正のフィードバックループを形成するために一歩踏み込んで手伝おうということです。

著者によると、1万人以上にこのエクササイズをやってもらって一番多かった感想は「楽しい」だったそうです。「役に立つ」「実践的」という感想よりも多い。

楽しければいいのか、問題点を認識してからその改善点をお互いに話し合う方が厳密で正確ではないか、という指摘もできます。しかし
「ちょっとこないだの仕事のフィードバックをしたいんだけど」と言われて
「♪ありがとうございます!」
というような環境に無いのであれば、まずはフィードフォワードで情報交流の密度を上げたほうがよさそうですね。

自分で自分にフィードバックをかけるときにこれを転用してみるとどうなるでしょう。

反省点を挙げる前にまず「こうやったらもっとうまく行くかも!」というアイディアを書き出してみるというようなことでしょうか。

自省というのはエネルギーの要る作業です。反省点を並べた時点で力尽きてしまってはフィードバックループが逆向きに回ってしまいそうですから(笑)、多少荒っぽくても前向きな方法のほうが元気が出るかもしれません。

(参考)
“Leave It at the Stream”
(このノートは上記のコラムに寄りかかっています。副題は”Instead of being a Monday-morning quarterback, focus on next week’s game.”。「月曜の朝のクォーターバック」というのは、「事後にあれこれ言う評論家」ということでしょう。)

“Forget the past. Focus on the future”
(上記のコラムを発見するきっかけになったblog)

“Try Feedforward Instead of Feedback”
(Feedforwardを提唱しているMarshall Goldsmith氏のページ)

#冒頭で引いた2人の僧の話、つい最近ミニ書評に挙げた本にも載っていたのですが、どの本だったかを失念してしまいました…。