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コンセプトノート

319. ディシジョン・ツリーを作ってみる

ディシジョン・ツリー

不確実な要素があって決めかねるとき、ディシジョン・ツリーを作ってみるやり方があります。
たとえば、あなたが起業を考えているとしましょう。起業の成否を問う最大の変数は、なんといっても景気(だと考えているとします)。
起業する/しないという決断をして、その後好景気/不景気になるのですから、4通りのシナリオがあることになります(下図)。

              ┌好景気─シナリオ1 
┌起業する──○                  
│            └不景気─シナリオ2 
□                                
│            ┌好景気─シナリオ3 
└起業しない─○                  
              └不景気─シナリオ4 

それぞれのシナリオの効用と、不確実な要素の確率を割り振ることで、決断の価値を計算しようというのが、ディシジョン・ツリーの考え方です。ここではシナリオの効用を測るモノサシとして、3年後の満足度を考えてみましょう。

まず各シナリオの評価をします。シナリオ1(起業する→好景気)であれば、言うことはありません。これを10とします。シナリオ2(起業する→不景気)では、失敗して経済的には損をするかもしれません。でもきっと得るものもあるだろうということで、プラスマイナスゼロと考えました。シナリオ3(起業しない→好景気)では、かすかに苦い後悔を味わうでしょう。だから−1。シナリオ4(起業しない→不景気)ではホッとして、5。
次に不確定な要素の確率を割り振ります。あなたは新聞などをじっくり読んで、今後3年間で好景気になる確率は3割(不景気になる確率は7割)という見通しを立てました。

材料が揃ったので、それぞれのシナリオに与えた価値に、それが実現する確率を掛け合わせていきます。それらを、同じ決断につながるものどうし足し合わせることで、決断の期待値が選択肢ごとに計算できます(下図)。

    3         ┌好景気(30%) ─シナリオ1 (10)
┌起業する──○                            
│            └不景気(70%) ─シナリオ2 (0) 
□  ∧                                      
│            ┌好景気(30%) ─シナリオ3 (-1)
└起業しない─○                            
    3.2       └不景気(70%) ─シナリオ4 (5) 

この場合、わずかに「起業しない」という選択肢が勝りました。われわれは、つい都合のよいシナリオ(この場合はシナリオ1)ばかり考えてしまいます。しかしディシジョン・ツリーを作ることで、起こり得るシナリオを網羅的に洗い出し、評価できます。
ツリーを広げたり、深めたりすることで、より精緻なシナリオが作れます。「広げる」とは、たとえば起業する/しないに「副業」、好景気/不景気に「変わらない」という新しい選択肢を加えることです。「深める」とは、たとえば(3年後でなく)1.5年後の景気によって、次の1.5年の決断(拡大/縮小/撤退)をするといったことです。
効用を売上で測り、それぞれの決断(図の□の部分)における選択肢ごとのコストを引けば、予想利益を比較することもできます。

決断のツールというよりは、決断を自分に納得させるツールとして

実際の決断がこのようにシンプルでないことは明らかです。「不確実な要素」をどうやって絞り込むのか、それぞれの確率をどう測るのか。また、それら「不確実な要素」で分岐した各シナリオの満足を、どうやって数値で表すのか。自分の主観で決めなければならない変数が多すぎます。上の例でいえば、シナリオ2の満足度を0.3だけ、あるいは好景気の見通しを2%だけ高めれば、「起業する」ほうに傾いてしまいます。
客観的なデータが何もない中では、結局数字の遊びでしかないように思えます。

ただし、意味がないとは思いません。なにかを決めてくれるツールではありませんが、決断を固めるにあたって考えの幅を広げてくれるツールとしては使えます。以下のようなメリットが期待できます。

・自分で選択できる決断(□)と、自分では変えられないイベント(○)を峻別して考えられます。
・あり得るシナリオを網羅し、それぞれへの期待を吟味できます。
・「決断」や「不確実な要素」を細分化し、定量化する努力を通じて、何を考えるべきかが明らかになります。
・自分の道にそれなりの重みを与えることにより、自分の決断シナリオを作り上げられます。
・決断の過程が分かるので、後から振り返ったときの反省材料になります。抱いていた過大な期待や、見逃していた重要な変数に気がつくことができます。