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コンセプトノート

747. ゴールが秘める魔法の力

ゴールが秘める魔法の力を取り戻すには

「ゴールが秘める魔法の力を取り戻すには」。クリスティーナ・ウォドキー 『OKR(オーケーアール) シリコンバレー式で大胆な目標を達成する方法』(日経BP社、2018年)の最後のあたりに、そう見出しが打たれた項がありました。項の冒頭部分が、本書のテーマであるOKRというシステムの端的な要約になっています。

 まずゴールを、「パフォーマンスを評価するしくみ」から、「人を鼓舞し、能力を高めるしくみ」に切り替えよう。つまり、会社におけるゴールのモデルや存在そのものをつくり替えるのだ。志のある短期的なゴールを、アグレッシブな数量的指標、そして毎週繰り返される実行と責任のリズムと組み合わせて、小さな結果をゆっくり出すのではなく、すばやく大きな結果を出そう。

「志のある短期的なゴール」すなわちObjective(目標)と、「アグレッシブな数量的指標」すなわちKey Results(主要な結果)の頭文字を取って、OKR。読書メモを兼ねてリスト化してみました。

  • 【Objective(目標)】 「定性的で人を鼓舞する」「期限つきの」「設定者/チームが独立して実行できる」「一文で書かれた」目標。
  • 【Key Results(主な結果)】 目標を満たすための、「定量的で」「挑戦的な(達成自信5割)」「3つ程度の」結果。

OKR(パフォーマンス管理システム)*ListFreak

これだけでは抽象的なので、本文で紹介されている例に少し手を入れたものも添えておきます。

  • Objective: ○○の愛好家向けにすばらしい商品紹介サイトを立ち上げる
  • Key Result1: 40%のユーザーが1週間に2回以上再訪
  • Key Result2: サイトを勧めたいかどうかのスコアとして10段階中8を獲得
  • Key Result3: コンバージョン率15%

ゴールのはたらき

OKRを採用しているGoogleは、”Google re:Work” というサイト内で OKRのコーナーを設けており、OKRというパフォーマンス管理システムについてわかりやすく解説しています。

このサイトで引用している論文のひとつに、目標設定理論を提唱するエドウィン・ロックという心理学者が「35年の遍歴」という副題を付けた総説論文がありました。その中で、ゴールが仕事のパフォーマンスに影響を及ぼす4つのメカニズムが紹介されています。意訳をお目にかけます。

  • 【方向づけ】 ゴールは行動に指向性をもたらす。ゴールはそれに関連する活動に注意と努力を払わせる。
  • 【励まし】 ゴールは人を元気づける。高いゴールはより大きな努力を引き出す。
  • 【持続】 ゴールは努力を持続させる。時間が使えるのであれば、困難なゴールは努力を延長させる。
  • 【活性化】 ゴールは状況に対処するのに役立つ知識と戦略を活性化させる。

ゴール(目標)がパフォーマンス(行動の効率)に与える4つの影響*ListFreak

人がそれに方向づけられ、励まされ、時間を費やしたくなり、持てる力を発揮したくなる。

それがゴールの潜在的な力だとすると、そうでないゴールは最善のゴールとは言えないわけです。

ゴールの力を弱めるものを遠ざける

本書の冒頭で、OKRがMBO(Management by Objectives、目標による管理)システムの改良版であることが説明されています。多くの企業で目標管理制度が取り入れられていますが、残念ながらうまく運用されている話をなかなか聞きません。

なぜか。最大の原因は、冒頭の引用文が端的に示しているように、ゴールが「パフォーマンスを評価するしくみ」になっているからでしょう。

達成度で評価されるなら、ゴールそのものを下げておくのが合理的な対応です。それを防ぎたいからと、挑戦的なゴール設定自体を評価の対象にしてしまうケースもあります。しかしそれでは、手続き的には自己申告のゴールであっても内発的な動機づけに欠け、「励まし」や「持続」の力を持ち得ないでしょう。

『OKR は、従業員を評価するためのツールではありません』。先述のグーグルのサイトにはそう明記されています。

OKRはさらにゴール本来の力を引き出すために、数値目標をKRに切り出し、先述の例でいえば「すばらしい商品紹介サイト」という表現に留めています。抽象的ですが、自分が価値を提供したい人に「すばらしい」サイトを提供する、というゴールには鼓舞されるものがあり、同時に限度がありません。そのゴールイメージを大事にしつつ、それが具現化された状態として「再訪率○%、満足度○%、購入率○%」というKRをめざす。そういった構造になっています。

ゴールといえば 「SMART」、すなわち「具体的・定量的・達成可能・成果との関連・期限」のような「条件」のリストが思い出されます。しかし、ゴールのゴール、つまりゴールを設定する目的から考えてみると、この5条件を揃えたからといって、ゴール設定ができたことにはなりません。

重要なのは「そのゴールは自分にどんな影響を及ぼすか?」です。

そのゴールに関連することに自然に意識が向き、そのゴール自身に励まされ、そのゴールのために時間を費やしたくなり、持てる力を発揮したくなる。そんなゴールが見つかったとき、「ゴールが秘める魔法の力」を実感できるのだろうと思います。