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コンセプトノート

102. コロンブスの一割引

『ひらめきはどこから来るのか』という本を読んでいたら、コロンブスのアメリカ大陸発見にまつわる愉快な記述にぶつかりました。ちょっと長いけれど引用します。

 エラトステネス(紀元前二七六〜一九四)は驚くべき正確さをもって、地球の大きさを算出した。ところが、プトレマイオスはこの説をとらず、旅行経験の豊富なストラボンの見解にしたがって、地球の大きさをかなり小さく見積もってしまった。やがて――とはいっても約一四〇〇年の歳月を経て――プトレマイオスの『地理学』はラテン語に翻訳されてヨーロッパに普及したが、その地図の上ではインドは実際の位置よりもはるかにヨーロッパ寄りに描かれていた。しかもコロンブスは、そこからさらに一〇パーセント割り引いて計算したらしい。こうした二割、三割は当たり前式の能天気な見通しがなく、仮に本当の距離が知られていたとしたら、たとえコロンブスといえども未知の大洋へと船を出す勇気は持ち得なかったのではないか、とブアスティンはいう。

(著者はこの部分の情報を『大発見〈1〉どうして一週間は七日なのか』という本から引いています)

(おそらく)命がけの航海。頼りは1400年前の地図。『しかもコロンブスは、そこからさらに一〇パーセント割り引いて計算したらしい』。リスクにはプレミアムを乗せるのが普通の考えですから、2割増しくらいで見積もりたいところです。本当に能天気だったのか、なにか「計算」があったのか、考えてしまいました。

よく考えてみると「わざと簡単そうに見積もる」ことはよくあります。初めて自転車の補助輪を外したときなど、「すぐに出来るようになるよ!」なんて言われたような気がします。子どもの「すぐ」は1分くらいですが親の「すぐ」は数日。「もうすぐもうすぐ」と言われつつ、とにかく最後にはできるようになりました。

そしていま、自分が子どもに同じことを言っています。子どもは最初は恐いだの痛いだのカッコ悪いだのと理由をつけますが、うまくノッて乗ってくれれば変わります。

コロンブスの真の意図は分かりませんが、やると決めてもなかなか動き出せないときには、この「コロンブスの一割引き」で弾みをつけるのもいいですね。

同時に、「能天気な」コロンブスをして一割しか引かなかったということも見過ごせません。一割引いても難しそうに感じるのであれば、まだ挑戦の時期ではないのかもしれません。