『EQ こころの知能指数』の著者ダニエル・ゴールマンは、2002年にHarvard Business Review誌に論文を投稿しています。『「燃え尽き症候群」を回避する自己管理術』と題されたこの論文(『EQを鍛える』に収録)に、「人生の棚卸しのタイミングを知る」という項がありました。
自分の人生を見直すきっかけの訪れを、次の6つの「シグナル」としてまとめています。
1. 「行き詰まりを感じる」
2. 「もううんざりだ」
3. 「いまの自分は自分が望んでいるような自分ではない」
4. 「倫理をないがしろにしたくない」
5. 「使命を放っておけない」
6. 「人生はあまりに短い」
特に、1の解説文の中にはハッとする記述がありました。われわれの多くは、「行き詰まり」を感じたとしても、状況を打開するようなチャレンジを簡単にはできない理由があります。たとえば、社会的地位や経済的な面での生活水準など。しかしその帰結はどうか。著者はこう述べています。
これらの理由から、状況が好転することを期待しつつも、疲れた足取りで同じ道を延々と歩まざるをえない。安定にしがみついたり、よき企業市民たらんと努力したりするが、結果的には自分で自分の牢獄をせっせと築くことになりかねない。
自分で自分の牢獄を築くとは、かなり厳しいコメントではないでしょうか。それだけ著者の危機感が大きいと読み取るべきでしょう。
ピーター・ドラッカーも、いわゆる「第二の人生」へのキャリア・チェンジがあり得ることを示唆しています。
「50歳といえば働き盛りである。その彼らが仕事に疲れ飽きたということは、第一の人生では行き着くところまで行ったということであり、そのことを知ったということである」
― ピーター・F・ドラッカー『断絶の時代』(ダイヤモンド社、2007年)
われわれはそういった「シグナル」を抑圧あるいは無視しがちです。社内での競争が忙しいためかもしれませんし、変化を自ら起こすよりは現状維持のほうが楽だと考えてしまうからかもしれません。
ゴールマンは、そういった「シグナル」を感知してその意味するところを自分なりに解釈するために、いくつかの方法を提案しています。なかでもページ数を割いていたのが「内省」でした。特別なメソッドを学んだりする必要はありません。彼が提案していたのも、過去を振り返る、人生の基本原則を定義する、やりたいことを書き出してみる、15年後の生活を描いてみるなど、いわば「ありふれた」エクササイズです。
しかし、そういったありふれたエクササイズをやっていないことを知らせてくれるのが「シグナル」なのでしょう。ゴールマンは内省を促すために、先のような厳しいコメントを埋め合わせてあまりある、力強い応援メッセージを贈っています。
つまるところ、その人生を早晩見つめ直す必要性が、ほとんどの人々に差し迫っている。内なる声に耳を傾ける機会に恵まれた人は、十中八九、これまでにもまして、強く、賢く、決意に満ちて、内省の時から戻ってくることだろう。