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コンセプトノート

334. 結果が出たら、しっかり喜怒哀楽しよう

情動・感情が意志決定に果たす役割

神経学者のアントニオ・ダマシオは、『生存する脳』『無意識の脳 自己意識の脳』『感じる脳』という三部作で、情動・感情の機能や役割について詳しく論じています。感情が意志決定に果たす役割についても言及されていて、このノートでもいくつかの学びを紹介しました(「325. 純粋理性の限界(感情が働かない患者の話)」「331. 「いやな感じ」「いい感じ」にも意味がある」)。

三部めの『感じる脳』でもこんな記述があります。

仕事を選ぶ、結婚するかどうかを決断する、新しいビジネスを立ち上げる、といったことは、決断に際してどれほど注意深く準備しようと、結末が不確かな決断の例である。典型的には、人は競合する選択肢の中で選択しなければならないのであり、そのような状況では情動と感情が役に立つのだ。

『感じる脳』

具体的にどう「役に立つ」のか。著者の解説をはしょって説明します。

われわれは経験(どんな状況だったか、どんな選択をしたか、その結果どうなったか)に、特定の情動・感情(それをどう感じたか)を結びつけて蓄積しています。新しい状況に直面すると、脳はその状況と過去の経験とを照らし合わせて、注意を向けるべき選択肢を感情という信号でわれわれ(つまり意識)に知らせてきます。

直感を育てるために、われわれにできること

「前にも似た状況があって、そのときはこんな選択をして、こんな【イヤな】結果だった」という情報の【イヤな】という部分だけが信号として伝わってくるという感じでしょうか。著者は意志決定における情動と感情のはたらきをこのように評価しています。
「情動と感情には、将来を見るための水晶玉があるわけではない。しかし適切な文脈で展開されると、それらは近い将来や遠い将来における、ことの善し悪しを教える前触れとなる」

その前触れに従うべきとは、一概には言えません。ビジネス上の決断のように複数の人間の合意が求められる場合は、個人的な経験に重きを置くよりは、客観的に見て良いといえる選択のほうが好ましいと思います。一方、伴侶・友人・仕事の選択といった個人的な、かつ結果の善し悪しをはかる物差しが自分の主観であるような選択については、情動と感情を役立てるべきでしょう。

先に述べたメカニズムが示唆するのは、いくら経験を積んでも、それが感情と結びついて蓄積されない限り、直感(情動・感情)システムは賢くならないということです。

経験を、感情としっかり結びつける。つまり、失敗したらしっかり落胆し、うまくいったらしっかり喜ぶ。そういった経験−感情のセットを一つひとつ蓄積していけば、著者のいう「ことの善し悪しを教える前触れ」が育っていくのではないでしょうか。

#「転職、ちょっと失敗だったかも」という友人から連絡をもらいました。「失敗しないと学ばないんだよね……」とも。でも、(わたしも含めて)失敗が怖くてなかなか学べない人が多い中にあって、敢えて試してみた勇気は尊敬に値すると思います。「しっかり落胆し、次に行こう」と伝えるために、このノートを書きました。