G. リチャード・シェル『無理せずに勝てる交渉術』という本を読んでいます。原著は1999年に出版され、翌2000年に訳出されました。しかし絶版となり、2016年に別の出版社から新訳で出版され直しています。わたしが読んでいるのはこちら。
流し読みをしていると『「ベストを尽くそう」という考え方はよくない』という記述が目にとまりました。
目にとまったのは、何かを決めるときにわりと好んで使う言葉だからです。
【この決定を後から振り返ったときに、『あのときの状況では、あれが最善の決定だった』と思えるだろうか。】
そんな自問を経て決めることがよくあります。
著者はどういう意味合いで「ベストを尽くそう」はダメだというのか。文脈から紹介します。
本書は全体として交渉のポイントを6つ挙げていて、その2つめが「目標と期待感。狙うゴールをはっきりさせよう」。ソニーを創業した盛田昭夫が、無名のときから高い目標を持ってラジオの販売店と交渉を行い、結果としてSONYブランドの認知を大きく高めた事例を枕に、具体的な注意点を5つ挙げています。
- 自分が本当に欲しいものは何か、よく考える
- 目標は高く、理にかなったものにする
- 目標は具体的に立てる
- 目標を書き出し、目標達成に向かって情熱を注ぐ
- 交渉の時には、書いた目標を「肌身離さず」持つ
わたしが引っかかった記述は「目標は具体的に立てる」にありました。著者は目標を具体的に立てるメリットを述べた後、こう続けます。
「ベストを尽くそう」という考え方はよくない。「とりあえず交渉してみて、どれくらいもらえるか様子を見よう」という姿勢は最悪である。こういう心構えで臨むということは、本心では「交渉で失敗したくない」と思っているということだ。
失敗を恐れたり、失望や後悔を味わうのを避けたりするのを望むのは、当然の心理である。だが、そうした心理に負けることなく具体的な目標を設定してこそ、交渉をうまく進めることができる。
「ベストを尽くそう」という言葉に潜む、ある種の逃避感情を的確に突いています。もう10年以上前に書いた『「ただ忙しいだけ」状態に陥る3つの思い込み』というノートを思い出しました。
先述の、決定に際しての自問の言葉も、「とりあえずがんばったからいいや」という気持ちが入り込まないようにアップデートしておきたいと思います。
【この決定を後から振り返ったときに、『あれが、そのときめざしていたものに向けての、最善の決定だった』と思えるだろうか。】
「めざしていたもの」は、具体的な成果、面白さといった感情、あるいは良い人間関係かもしれません。いずれにせよ、どういう状態をめざしていたのか、未来の自分に向かって説明をしてから行動に移すというステップを、しばらく試してみようと思います。