最悪の未来は描きやすい
「この会社が5年後も存続していると言い切れる人?」
と、リーダー研修などで聞いてみます。誰も手を挙げません。東日本大震災の後はなおさらです。そこで
「天災などで経営資源が直接かつ一気に損なわれるケースは除きます(1)。たとえばメディアが『あそこは倒産するべくして倒産した』と評する状況が想定できない人?」
と聞いても、やはり、誰も手を挙げません。
当然ですよね。日本有数の証券会社であっても、世界最大級の会計事務所であっても、廃業はあり得ます。天災がなくても、5年間もあれば何だって起こり得ます(2)。
次に、
「5年後の倒産の原因として、もっともあり得そうなもの」
を考えてもらいます。
これも、いろいろ出てきます。主力事業が衰えてしまい、それを代替する新事業も育たなかったというのが定番です。「経営者の不祥事」とか「経営者の失言」とか、最近目立った事例が脳裏をよぎったのかな、と思われるような原因も出てきます。
本題はここからです。
「どんなに不連続に思えても、未来と現在はつながっている。この会社がそういった原因で5年後につぶれる可能性があるなら、その予兆は、今・ここ(この会社)にあるはず。それは何か」
を考えてもらいます。それが見えれば、今何を考えるべきかは自ずと明らかになります。
これまで予兆を見つけられなかった人はいません。これも実は当然の話で、「こういう原因で倒産するかも」と思うからには、当人の意識のどこかで、その周辺に対してアラームが鳴っているのです。
最善の未来は描きにくい
これとまったく同じことを、今度は倒産のような最悪のケースでなく、最善のケースでやってみます。
ところが面白いことに(と言うのは不謹慎かもしれませんが)、こちらは難しいのです。はるかに難しい。
「5年間あればどんなことでも起き得る」はずなのに、5年間で事業規模が10倍になるとか、世界中から賞賛される企業になるとか、そもそも起き得るとは思えないのです。
それでも先に進めます。描けるだけの5年後の最善の状態を描き、それができた主原因を考え、そのタネをいまの組織の中に探します。そして最善の5年後を実現するために、今できることを考えます。
この一連のワークは、もとは別の目的で考案したのですが、さまざまな学びを生み出しました。なかでも大きな発見は「われわれが今日することに制約を課しているのは、保有している資源というより想像力である」ということです。
(1) もちろん天災やテロなどあらゆる災害を想定すべきではあります。ここで言っている「経営資源が直接かつ一気に損なわれるケース」とは、社屋が一気に倒壊して全社員が死亡するといった、おそらくは事業の継続をあきらめなければならないケースです(部署を地域や大陸をまたいで分散できる大企業を除いては、取れる対策にも限界があります)。
(2) わたしの経験は企業に限られています。地方自治体あるいは国家の運営を担っているリーダー層であれば、答えのバリエーションは増えるかもしれません。