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コンセプトノート

751. そして、しかし、したがって(ストーリーのABT)

ABT(そして、しかし、したがって)でストーリーをつくる

「ストーリーがある」とはどういうことか。シンプルにいえば、「次を知りたくなる」ということでしょう。「どうして?」「それで?」「次は
?」といった興味の連鎖で最後まで聞いたり読んだりしたなら、その話にはストーリーがあったということです。しかし、それが難しい。したがって、テンプレート(ひな形)があるとありがたいわけです。

ランディ・オルソン氏は、終身在職権つきの生物学教授の職を辞し、ハリウッドに移って脚本家・監督に転身した人物。著書 『なぜ科学はストーリーを必要としているのか──ハリウッドに学んだ伝える技術』(慶應義塾大学出版会、2018年)で、主に科学界に向けて、論理的な文章にストーリー性を盛り込む必要性やコツを伝えています。その中心となるのが「ABT」というテンプレート。

  • 【And(そして)】 背景・合意・テーゼ(正) 「科学は人々にとっての喜びであり、そして、私たちの暮らしを向上させてくれるものです。」
  • 【But(しかし)】 問題提起・対立・アンチテーゼ(反) 「しかし、科学のことを伝えるのは時に難しくもあります。」
  • 【Therefore(したがって)】 解決策・帰結・ジンテーゼ(合) 「したがって、私たちはコミュニケーションにいっそうの努力を費やす必要があります。」

ABT(物語の普遍的な構造)*ListFreak

マクロからミクロまで、本でいえば章・節・項という見出しレベルから段落・文いたるまで、すべてのレベルにこのABT構造を盛り込めます。このノートの冒頭の段落もABTで書いてみました。

一方、ABTでない構造とはどんなものか。著者は2つの型を挙げています。
一つは、「つまらないAAA」。And(そして)、And(そして)、And(そして)と、メッセージがただ順接的に並んでいるタイプです。
もう一つは、「混乱を招くDHY」。Despite(それにもかかわらず)、However(しかしながら)、Yet(それでも)と、逆接が連発されているタイプです。
AAAはストーリーが無いために退屈で、DHYはストーリーが過剰なために混乱します。その中間にあるのがABTというわけです。

初読時は「まあ、それはそうだろう。しかし抽象的すぎて実用性がないのでは?」という印象でした。

考えたことをストーリーに仕立てる、そもそもストーリーになるように考える

しかし、実際にいくつか文章を書いてみると、同じ素材でも少しの気づかいで「ストーリーとして書ける」ことが実感できます。

たとえば問題解決のストーリーは、「問題は売上の低下だ。そして、原因は接客の悪さだ。そして、解決策は接客研修だ」とAAA型で書くことができます。問題→原因→解決策という言葉自身に論理の流れがあるので、接続詞がなくても意味が通ります。

しかし、すこし修辞を施して、「表面的な問題は売上の低下というカネの話だ。しかし本質的な原因は接客の悪さというヒト面にある。したがってヒトに目を向けた解決策、つまり接客研修が必要だ」などと流れを作ることで、読みごたえが増します(よね)。

したがって、伝達においては、「何を」伝えるかと同じくらい「どう」伝えるかも重要なのです。

それだけではありません。アウトプットを意識して「ストーリーになるように考える」ことで、自分に深く考えさせられることにも気づきました。

たとえばこのノートは、本や実務経験からの気づきや学びをまとめています。

しかしそれだけでは、「こんな本を読んだ、【そして】こう感じた、【そして】こうやってみようと思った」とAAA型になってしまいます。
したがって、一ひねりが必要です。「こんな本を読んだ、【しかし】こう感じた」と言えるだけの批判的精神を持って省察しよう。さらに「【したがって】こうやってみようと思った」と言えるだけの演繹的思考をしよう。そんな思考態度を、いい意味で強制してくれます。

(この項の「たとえば」から始まる二つの段落もABTで作ってみました)

さらに効率よく:ABTテンプレートのテンプレート

したがって、ストーリーの型をいくつか用意しておけば、速く深く考えるために使えそうです。

たとえば本で学んだ理論を実践してみた場合は、このようなストーリーになるでしょう。

  • 【理想】 理想的には・理論的には・建前としては・べき論としては、こうだ
  • 【現実】 しかし、現実には・本音は・実際にやってみると、こうだった
  • 【工夫】 したがって、こういう工夫をしてみよう

学んだこと(理想)を実際にやってみて(現実)自分なりに身につけていく(工夫)ストーリーです。このコーナーではこの形が一番多いかもしれません。実際、今回の記事もそのように作ってみました。

  • A: (ABTという型を知った。わかりやすいが使えるのか?)
  • B: 『しかし、実際にいくつか文章を書いてみると、同じ素材でも少しの気づかいで「ストーリーとして書ける」ことが実感できます。
    それだけではありません。アウトプットを意識して「ストーリーになるように考える」ことで、自分に深く考えさせられることにも気づきました。』
  • T: 『したがって、ストーリーの型をいくつか用意しておけば、速く深く考えるために使えそうです。』

この文まで到達してくださったことを願っています。