ABT(そして、しかし、したがって)でストーリーをつくる
「ストーリーがある」とはどういうことか。シンプルにいえば、「次を知りたくなる」ということでしょう。「どうして?」「それで?」「次は
?」といった興味の連鎖で最後まで聞いたり読んだりしたなら、その話にはストーリーがあったということです。しかし、それが難しい。したがって、テンプレート(ひな形)があるとありがたいわけです。
ランディ・オルソン氏は、終身在職権つきの生物学教授の職を辞し、ハリウッドに移って脚本家・監督に転身した人物。著書 『なぜ科学はストーリーを必要としているのか──ハリウッドに学んだ伝える技術』(慶應義塾大学出版会、2018年)で、主に科学界に向けて、論理的な文章にストーリー性を盛り込む必要性やコツを伝えています。その中心となるのが「ABT」というテンプレート。
- 【And(そして)】 背景・合意・テーゼ(正) 「科学は人々にとっての喜びであり、そして、私たちの暮らしを向上させてくれるものです。」
- 【But(しかし)】 問題提起・対立・アンチテーゼ(反) 「しかし、科学のことを伝えるのは時に難しくもあります。」
- 【Therefore(したがって)】 解決策・帰結・ジンテーゼ(合) 「したがって、私たちはコミュニケーションにいっそうの努力を費やす必要があります。」
ABT(物語の普遍的な構造) – *ListFreak
マクロからミクロまで、本でいえば章・節・項という見出しレベルから段落・文いたるまで、すべてのレベルにこのABT構造を盛り込めます。このノートの冒頭の段落もABTで書いてみました。
一方、ABTでない構造とはどんなものか。著者は2つの型を挙げています。
一つは、「つまらないAAA」。And(そして)、And(そして)、And(そして)と、メッセージがただ順接的に並んでいるタイプです。
もう一つは、「混乱を招くDHY」。Despite(それにもかかわらず)、However(しかしながら)、Yet(それでも)と、逆接が連発されているタイプです。
AAAはストーリーが無いために退屈で、DHYはストーリーが過剰なために混乱します。その中間にあるのがABTというわけです。
初読時は「まあ、それはそうだろう。しかし抽象的すぎて実用性がないのでは?」という印象でした。
考えたことをストーリーに仕立てる、そもそもストーリーになるように考える
しかし、実際にいくつか文章を書いてみると、同じ素材でも少しの気づかいで「ストーリーとして書ける」ことが実感できます。
たとえば問題解決のストーリーは、「問題は売上の低下だ。そして、原因は接客の悪さだ。そして、解決策は接客研修だ」とAAA型で書くことができます。問題→原因→解決策という言葉自身に論理の流れがあるので、接続詞がなくても意味が通ります。
しかし、すこし修辞を施して、「表面的な問題は売上の低下というカネの話だ。しかし本質的な原因は接客の悪さというヒト面にある。したがってヒトに目を向けた解決策、つまり接客研修が必要だ」などと流れを作ることで、読みごたえが増します(よね)。
したがって、伝達においては、「何を」伝えるかと同じくらい「どう」伝えるかも重要なのです。
それだけではありません。アウトプットを意識して「ストーリーになるように考える」ことで、自分に深く考えさせられることにも気づきました。
たとえばこのノートは、本や実務経験からの気づきや学びをまとめています。
しかしそれだけでは、「こんな本を読んだ、【そして】こう感じた、【そして】こうやってみようと思った」とAAA型になってしまいます。
したがって、一ひねりが必要です。「こんな本を読んだ、【しかし】こう感じた」と言えるだけの批判的精神を持って省察しよう。さらに「【したがって】こうやってみようと思った」と言えるだけの演繹的思考をしよう。そんな思考態度を、いい意味で強制してくれます。
(この項の「たとえば」から始まる二つの段落もABTで作ってみました)
さらに効率よく:ABTテンプレートのテンプレート
したがって、ストーリーの型をいくつか用意しておけば、速く深く考えるために使えそうです。
たとえば本で学んだ理論を実践してみた場合は、このようなストーリーになるでしょう。
- 【理想】 理想的には・理論的には・建前としては・べき論としては、こうだ
- 【現実】 しかし、現実には・本音は・実際にやってみると、こうだった
- 【工夫】 したがって、こういう工夫をしてみよう
学んだこと(理想)を実際にやってみて(現実)自分なりに身につけていく(工夫)ストーリーです。このコーナーではこの形が一番多いかもしれません。実際、今回の記事もそのように作ってみました。
- A: (ABTという型を知った。わかりやすいが使えるのか?)
- B: 『しかし、実際にいくつか文章を書いてみると、同じ素材でも少しの気づかいで「ストーリーとして書ける」ことが実感できます。
それだけではありません。アウトプットを意識して「ストーリーになるように考える」ことで、自分に深く考えさせられることにも気づきました。』 - T: 『したがって、ストーリーの型をいくつか用意しておけば、速く深く考えるために使えそうです。』
この文まで到達してくださったことを願っています。