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コンセプトノート

752. 習慣の棚卸し

自由に生きるために守るもの

自由に生きる』という本に、○○を守って生活してみたらこんな効用があった、というリストがありました。

  1. 身体が健康になる
  2. 生活が簡素になり、あるモノで満足できるようになる
  3. 無駄な選択肢が省かれ、疲れなくなる
  4. 危険な目に遭ったり、不安に陥ったりすることが少なくなる
  5. モノに頼らずに、人間関係を深めたり、幸せを見つけたりすることができる
  6. 無理なくスムーズに心の変容を促していくことができる
  7. 忍耐力が培われる
  8. あるがままを受容する心の基礎ができる
  9. 心の現象について気づく機会を増やせる
  10. 偏見や先入観を取り除くきっかけとなる
  11. 相手に脅威を与えず、よき関係づくりの基盤となる

こんなにたくさん効用がある○○とは、何か。

「戒律遵守」でした。

著者はプラユキ・ナラテボーという(日本人の)仏教僧。実はリストにはもう一項目ありました。

12.仏法の価値を貶めず、高めさせることができる(話の説得力を増す)  

戒律とは言動(言葉と行い)のルールです。仏教といえば五戒が知られていますが、これは在家仏教徒の日常生活用のもので、僧侶は227もの戒があるそうです。ちなみに、「○○してはならない」という「禁戒」のみで成り立ち、「○○すべし」という「勧戒」項目はないとのこと。

正しい選択を楽にする

さぞ窮屈では、と思いきや、著者は『これまでにない自由を感じるようになった』と書いています。詳しくは本書に譲りますが、著者が挙げた効用を眺めてわたしが理解した内容を簡単に書いておきます。

何を言う(する)べきで、何を言う(する)べきでないか。日常生活では言動の選択に膨大なエネルギーを費やしています。言動を、考え抜かれたルール集に従わせられれば、心的負担を大きく減らせることは想像に難くありません。仏教では身口意すなわち行為・言葉・思考の三業を調えるのが修行なので、戒律に従うことで「意」に集中することができます。

並行して読んでいた『知ってるつもり――無知の科学』にも、選択の自動化というトピックがありました。著者は、経済学者リチャード・セイラーの「消費者に資産形成を促すには、複雑な金融の知識を教えるより有効性の高い単純なルールを提示せよ」という提言を紹介しています。たとえば、企業年金制度への加入意思を確認するならデフォルトを「加入」としておくだけで、加入率が劇的に高まります。

意図はずいぶん違いますが、「正しい選択をラクにするためにルールを作る」という点は共通しています。

戒は習慣

「戒」という言葉は「すべからず」という意味でのみ使われるものと思っていたのですが、勧戒で「すべし」という意味合いも持たせられるのですね。やはり並行して読んでいた『初期仏教』という本によれば、「戒」の原語は習慣を意味するとのこと。そしてこちらにも「戒」の効用が書かれていました。

言葉の意味としては「良い習慣」も「悪い習慣」も含みうるが、言うまでもなく、仏教の「戒」とは良い習慣を意味し、身につけるべき正しい行動様式を指している。
 「戒」が習慣を意味するという、このこと自体が重要である。(略)仏教がこの語を用いたのは、習慣化に倫理的効用があることを見出していたからに他ならない。

われわれは習慣の動物です。自発的に身につけた習慣もあれば、他者に勧められて身につけた習慣もあります。そのように意識せずとも無意識に身についた習慣もあります。

そういった習慣を身口意すなわち行為・言葉・思考のレベルで洗い出してみたらどうなるでしょうか。「習慣」を、少しミクロなニュアンスのある「癖」と言い換えてもいいでしょう。行動の癖、口癖、思考の癖です。そしてそれぞれを、強化すべき・停止すべき・どちらでもない、程度に色分けします。

どのように収集するか。たとえば「○○をやっておいてよかった」と感じたら、その成功をもたらした習慣を収集できます。「また失敗してしまった」と感じたら、その失敗をもたらした習慣(あるいは習慣の欠如)を収集できます。そのほか、迷ったときやとっさの判断など、癖が出た瞬間を振り返っていけば、かなり集められそうです。

時間がかかりそうですが、この「習慣の棚卸し」とでも呼ぶべき作業ができたら、ずいぶんすっきりしそうに思います。