カテゴリー
コンセプトノート

750. 次の一歩を促す(敷居を下げる、背中を押す、手を引く)

成果の発表でなく過程の共有でOKです

ちょっとした言葉づかいが、相手の行動を促したり押しとどめたりします。先日わたしのファシリテーションを見学してくださった方から休憩時間によいアドバイスをいただきました。

グループで話し合ったことを「発表」してもらえますか、というところで、発表の代わりに「共有」を使ってみてはどうか、というアドバイスでした。なるほど、「発表」は議論の成果が出ていないとやりづらいですが、「共有」なら議論がまとまっていなくてもできそうです。その場の目的に照らしていえば、成果の発表でなく過程の共有で十分だったので、共有のほうがむしろ適切です。そういえば以前にもそういうアドバイスをどなたかからいただいた気がするのですが、すっかり忘れていました。

その日と、次の機会でさっそく試してみました。まだ明確な違いが感じられたわけではありませんが、「促しの選択肢」を複数持てるのはありがたいことです。もう少し試してみようと思います。

最初の(あるいは最後の)一歩を促す

相手に最初の一言、最初の一試行を促すシーンは少なくありません。司会や講師やファシリテーターのように役割としてそれが求められる状況はもちろんですが、上司として部下の相談に乗るときなど指導的局面でもそうでしょう。何をやりたいか、どう考えるかなど、まず自分で考えて言葉にしてみてほしいようなシーンです。権限の力で「言え」「やれ」と言えば言ってくれるでしょうが、それでは自発性が育ちません。子どもとの会話でも同じような状況はあるかもしれません。

会議や商談などでは、最初の一歩でなく「最後の一歩」を促すシーンもありそうです。この場で言っておきたいことがあれば率直に言ってほしいとか、最後の決断をしてほしいとか。こちらにとって望ましい状況へと誘導するためではありません。決断の内容がどうであれ、自分の意見を表出することへのためらいを乗り越えてもらうためです。

敷居を下げる、背中を押す、手を引く

そこで、自分の意見を表出することへのためらいを感じている人に、一歩を促す小技をまとめておきたくなりました。一歩というメタファーを活かして考えてみます。

敷居を下げる — 気が楽になるような言葉を選択する

冒頭の「発表」でなく「共有」がこの例です。部下に「問題があったら報告するように」でなく「困ったら教えてほしい」と言うことで相談が増えたというマネジャーの話を聞いたことがあります。

背中を押す — 励ます、バイアスを使う

「敷居を下げる」は、あくまで相手の自発性を尊重するイメージです。「背中を押す」はそれに比べると少しこちら側の意図がこもった促しです。

「励ます」は「間違っていてもいいから」「お試しと思って」言ってみよう・やってみよう、といった声かけ。

「バイアスを使う」は、人間が普遍的に持っている心理的傾向を意識した声かけです。操作主義的にならないように、こちらにはその意図がなくても相手がそう感じることのないように、「こういう見方もある」というスタンスを保って使うのがよいと思います。について補足します。さまざまなバイアスが知られていますが、『影響力の武器』でいえば、次のような感じです。

  • (返報性)(こちらから先に、すこし言いづらいことを言う)
  • (社会的証明)○○さんにもやってもらっていて~
  • (好意)私も以前は~(相手との共通点を作る。社会的証明にもなる)
  • (権威)考えを言葉にすることにはこんな効果があるという研究が~
  • (希少性)せっかくの機会だから~
  • (コミットメントと一貫性)前回もやってもらった通り~

手を引く — 半歩を踏んでみせる

「背中を押す」よりもさらに明白な促し。ちなみに「手を引く」といっても取りやめるという意味ではありません。ヒントを出す、手本を見せる、半分答えを与えて残りをやってもらう。たとえばそういった行動で、相手の手を握って最初の半歩だけ踏み出してもらうイメージです。

相手の前にある敷居を下げたり、後ろに回って背中を押したり、また前に回って手を引いたりと、慌ただしい感じになりましたが、それなりに思い出しやすい三つ組ができました。

一歩を促す必要があるのは、他人ばかりとはかぎりません。自分自身に対しても、このような促しは効果的でしょう。いずれにせよ、次の機会に試してみます。