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コンセプトノート

144. 『ネクスト・マーケット』に学ぶイノベーション

イノベーションのケーススタディ集

『ネクスト・マーケット』は、世界に40億人以上いると言われる、1日2ドル未満で暮らしている「貧困層」― Bottom Of the Pyramid (BOP)に焦点を当てたビジネス書です。内容については書評に譲り、このノートでは「イノベーション」について考えたことをメモしておきたいと思います。

本の中では12のケースが詳しく紹介されています。困難な状況を創造的な手法で克服した事例ばかりです。

例えば、『インドでは、全国調査の結果、全人口の一0%がつねに下痢にかかっており、毎年六六万人が下痢性疾患で死亡していると推定される』という問題。ビジネスの出る幕はあるのでしょうか。

答えはYesです。出る幕があるどころか、下痢に苦しむ層を援助の対象としてではなく顧客と見立てることによってこそ、持続性のある改善メカニズムを見出すことが可能になったのです。
下痢の感染経路は主に人間の「手」であり、石けんで手を洗うだけで下痢の発症を50%近く抑えることができることが知られています。ケースでは、インド最大の石けんメーカーが官民のパートナーシップを活用しながら、石けんを「健康ビジネス」として展開しています。

これらの事例に共通するポイントは、本書の前半でフレームワーク化されて解説されています。

創造的な解を見いだすために

本書から、個人の意志決定においても使えそうな「イノベーションを起こすポイント」を2点にまとめてみました。

1.憶測や期待でなく事実に基づく
BOP問題を難しくしている原因の一つに、これが人道問題でもあるが故に情緒的な側面を持っていることが挙げられます。
インドの貧困層が下痢に苦しんでいると聞けば、つい短絡的に、富める第三者が石けんを無償配布するべきといった解に思考がいってしまいます。しかし何らかの価値の循環がなければ、一方的な「施し」では、永続可能なメカニズムにはなりえません。
事実を調査した組織は、BOP層もブランド志向があり、健康志向があることを知りました。収入が不安定であるというBOP市場の特性にあった商品設計や、目で見て綺麗であれば清潔と考えてしまう知識不足をただすマーケティングができれば、そこに持続性のあるマーケットを築ける可能性があると分かったのです。

我々が自分のこれからを考える場合にも、現地調査をせずに判断をしているケースは多いのではないでしょうか。資格がないと市場価値が下がるとか、資金がないと起業できないとか。90%は事実かもしれませんが、たまたま自分のケースはそうではないかもしれません。自分の「前提」を、事実をベースに数字で裏付けてみることで、意外な発見があるかも知れません。

2.具体的に考え、粘り強く実行する
成立したビジネスを後から見ると、「綺麗な」イノベーションの事例です。しかしケースには、調査をし、仮説を立て、実践するというサイクルを回しながら収益を確保するまでの、大変な試行錯誤の道のりが記されています。

憶測や期待でなく事実に基づく。具体的に考え、粘り強く実行する。
かなり地味になってしまいましたが、
この積み重ねこそが驚くような「イノベーション」の正体であるというのが、
わたしが本書から学べたことです。