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ネクスト・マーケット 「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略


ミニレビュー

貧困問題をビジネスで解決する

1日2ドル未満で暮らしている、経済ピラミッドにおける
「貧困層」― Bottom Of the Pyramid (BOP)
は、世界で40億人にも達するそうです。
いわゆる慈善事業が「維持・継続」そして「規模の拡大」という2点で
成功事例を作れないでいる中、本書はこう主張しています。

 貧困層は慈善や援助の対象ではなく、「顧客」になり得る。
 またそのように発想することこそ、貧困問題の緩和につながる。

情緒に流れず、問題解決のメカニズムを考察するという視点を貫いています。
だから前向きさを感じます。

引用:

 

 本書は、「実際にどうすればうまくいくのか」について考察している。これは、「誰が正しいか」を言い争うことではない。また、「何がいけないのか」にも、あまり関心はない。うまくいかない可能性などいくらでもあり、実際にそうなったケースは山ほどある。大切なのは、「数少ない成功事例から学べることは何か」で、それが今後の道筋を示してくれる。

1997年からの研究活動の集大成だけあって、フレームワークは堅牢、事例は豊富。米国Fast Company誌が選んだ「2004年のベストビジネス書」 で1位を獲得したのも納得できます。

BOP市場という沃野

第一章では、BOP市場のポテンシャルと、その理解を妨げている我々の先入観について論理的で分かりやすい説明がされています。その多くは、BOP市場に関心の無かったわたしにとってはハッとさせられる発見でした。例えば:

シャンプー一本でも大き過ぎる(p46)
『貧困層の収入は不安定で、多くの者が日当で生計を立てており、現金を控えめに使わなければならない。現金があるときだけ買い物を誌、その日に要るものだけを買う傾向にある。』
⇒「一回ごとの使い切り」サイズでないとニーズに合わない。

「貧しいが故の不利益」がある(p37)
同じインドのムンバイでも、郊外の貧困地域に住む人は、裕福な地域の住人の53倍もの利子を払わないと借金ができません。これは貸し倒れのリスクが53倍高いからではなく、『非効率な販売網と地元の中間搾取業者』によるとのこと。実際のところは、貧困層であっても富裕層であってもリスクは変わらないそうです。
⇒十分なリスクプレミアムを取りながら格段に低い利率で融資ビジネスに参入できる余地がある。

豊富なケーススタディ

第二部では、BOP市場の開拓に挑む12の事業を紹介しています。全部で270ページもあり、これだけで一冊の本になる分量です。興味深く読んだのは『患者の大多数を無料で治療しているが、財政的にはつねに自立している』というインドの眼科治療機関「アラビンド・アイ・ケア・システム」と、インターネットでなく電話で感染症の防御システムを作り上げた「ボクシーバ」の事例。

「届かない」マーケットを開拓する教科書として

「そうはいっても貧困層を対象にしたビジネスなど、いまのところ自分には関係ない」と思われる方も多いと思います。
しかし本書を、「届かない潜在顧客」を開拓するというチャレンジの本であると見立てれば、多くの方にとって有益な発見があるでしょう。

(たとえば以下のようなことです。長いのでお時間のあるときに)

同じ人間でも、ある業界からみれば富裕層なのに、別の業界からみれば貧困層だということがあります。

分かりやすい例で考えてみます。わたしは自動車産業から見れば「貧困層」です。。これまでディーラーからは新車も中古車も買ったことがありません。だからDMも来ません。自動車業界からは「届かない」場所にいるといっていいでしょう。購買力がないというわけではなく、所有しても便益/コストが引き合わないと考えているので、財布の紐が堅いのです。選択的消費が進んでいる先進国ではよくある現象です。

しかしクルマに対するニーズが無いというわけではありません。ときどきはレンタカーを借ります。

ただ、レンタカーでもまだ高い。

そんなある日、ご近所の仲良しさんからカーシェアリングの申し出がありました。車は手放しがたいが、そんなに使っているわけでもない。よかったらウチが使っていないときに貸しますよというご提案でした。

とてもいい話なので前向きに考えているのですが、実際にはまだ借りたことがありません。車の貸し借りに伴う手続き、つまり保険や小さな傷の確認をどうするといったことを考えるのが面倒だからです。

もし仮に、レンタカーオフィスが、実際の車を貸す業務を取り除いたサービス部分だけを提供してくれるとしたらどうでしょう。
つまりレンタカーオフィスが、客が持ち込んだ車に対して、
・ワンショットで入れる保険
・使用後の簡単な掃除
・使用中に傷が付いたかどうかの確認
などのサービスを安く提供するということです。(貸し借りに伴う料金云々は、当事者同士の話なので関与する必要はありません)

わたしの見るかぎり個人向けのレンタカーオフィスはけっこう閑散としていて、従業員の方も時間がありそうです。このサービスによって必要な土地が増えるわけでもありません。ならば上記のようなサービスでわたしのような「所有しないが利用したい」セグメントの取り込みを狙ってはどうでしょうか。

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