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コンセプトノート

509. 「根性」を定義する

“Grit”が成功を予測する

「成功を予測するのはIQより〇〇」式の主張はたくさんあります。ペンシルベニア大学の研究者アンジェラ・リー・ダックワースによれば、〇〇は”grit”(本ノートでは「根性」)です。

ダックワースがこのキャッチーなキーワードを論文のタイトルに据えたのは2007年。さまざまな組織を対象に、被験者の根性とその後の成果に高い正の相関があることを示してきました。一連の研究は多くの書籍で参照され、本人もTEDなどで啓蒙に努めています。2010年のヒット映画”True Grit“も、この言葉の認知度を高める後押しになった……かもしれません。

根性の測定方法は比較的シンプルで、アンケートへの回答をスコア化します。2007年の論文(1)に載っていた12の質問のうち半分を翻訳のうえ引用しましょう。被験者はこれらの文章が自分に当てはまる度合いを5段階で評価します。

  • 私は重要なチャレンジを克服するために挫折を乗り越えてきた。
  • 私は挫折してもくじけない。
  • 私はハードワーカーだ。
  • 私は始めたことは何であれ終わらせる。
  • 私は数年がかりの取り組みが必要な目標を達成してきた。
  • 私は勤勉だ。

研究の結果わかったのは要するに、これらの文章を強く肯定する人ほど、後で成功するという結果が得られているということです。まあ当然というか、そうでなかったらむしろびっくりしてしまうような気もしますが、それは「後知恵のバイアス」かもしれません。

根性を定義する

この研究はさておき、ここまで「根性」と呼んできた、人を成功に導く粘り強さをどう定義するかに興味を持ちました。もちろん論文には何らかの定義があるはずですが、ここではゼロから考えてみます。何かに取り組んでいる人の頭の中を覗けたとして、何を測れば根性を測定したことになるのでしょうか。

第1の要素には【対象への興味】を挙げます。何に取り組んでも根性を発揮して成功してしまう人もいるかもしれませんが、粘り強く取り組める分野と飽きてしまう分野があり、前者においてこそ根性を発揮できると考える方が妥当と考えるからです。

興味の強さが同じくらいだとしても、成果への長い道のりの過程で「万策尽きた」とやめてしまう人もいます。そう考えてみると、第2の要素として「想像力」が浮かんできました。失敗しても、そこから学んで【次の策を思いつける想像力】があれば「万策尽きた」とはならないはずです。

もう一歩進めてみます。ある課題に強い興味を持ち、試行錯誤のための手段を思いつける想像力があっても、やはり途中でやめてしまう人とそうでない人はいるでしょう。その人たちを分かつものは何か。第3の要素として【粘り強さを善とする、あるいは放棄を悪とする価値感】のような因子がありそうです。
このように分解してみると、先述のアンケートが測定しているのは主に第3の要素(だけ)のように思えます。アンケートはチャレンジの対象を限定していないので、興味がある対象であろうがなかろうが「挫折してもくじけない」人間だと言えるかを問うています。想像力のような思考スキルを測る質問でないのは見ての通りです。

粘り強さを生み出すのは、どこまでも成長できるというマインドセット

もし成功するための重要な因子が根性であり、根性を支えるのは【粘り強さを善とする、あるいは放棄を悪とする価値感】とするならば、その価値観はどこから来るのか、どうしたら伸ばせるかという興味が湧いてきます。

すくなくとも自然に身につくものではないでしょう。保護者による教育、個人的な体験、尊敬する人への私淑、そういった経験の蓄積が、粘り強さをよしとする価値観を育てていくのだと思います。

ダックワース氏のTED講演を見直してみると、スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授が提唱する「成長マインドセット」(growth mindset)への言及がありました。これは、人間の学ぶ能力は才能や人格といった先天的な因子で固定されるのではなく、努力によって伸ばせるのだと信じる姿勢を指します。

では、自分はどこまでも成長できるというマインドセットはどのように育てられるのか。引き続き、粘り強く 😉 考えてみたいと思います。


(1) Duckworth, A.L., Peterson, C., Matthews, M.D., & Kelly, D.R. (2007). Grit: Perseverance and passion for long-term goals. Journal of Personality and Social Psychology, 9, 1087-1101.