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コンセプトノート

258. 「今までの」と「新しい」の間にあるもの

アンゾフのマトリクス

経営戦略の古典的なフレームワークに「アンゾフのマトリクス」があります。「誰に」「何を」売るかををそれぞれ「既存」と「新規」に分けることで、事業開発の方向性を考える助けになります(右図)。

これは個人がチャレンジをするときにも応用できる考え方です。例えばキャリア・チェンジのための次の一歩を、「転職して/今の会社で」と「違う職種で/今の職種で」からなる2×2のマトリクスで考えてみる。これは「自己投資とキャリアアップの戦略」(@IT自分戦略研究所)というコラムに書いたことがあります。

さて「アンゾフのマトリクス」には拡張版があります。「新規」と「既存」の間に「隣接」という概念を持ち込んで、3×3のマトリクスで考える方法です。市場軸であれば、既存市場と新規市場の間の「隣接市場」を考える。例えば、団塊ジュニア世代をターゲットにしてきたのであれば、そのすぐ上あるいは下の世代への展開を考えるということです。2×2から3×3になったことで、マスを超える敷居が大きく下がります。

チャレンジの方向性

これもまた個人への転用が可能です(右図)。縦軸「Value」は、社会が認めてくれている自分の価値。横軸「Skill」は、何かをなす能力です。仕事で例えれば「リサーチ能力(Skill)に強みがあるセールス職(Value)」ということです。新しいSkillを学び、新しいValueを社会に与えていこうというその方向性をどうやって見出すかといえば、右上に置いた「Passion」に従うという整理です(Passion-Skill-Valueについては『「求められる人材」から「活躍する人材」へ』をご参照ください)。

「隣接」の定義は個人によって違います。例えば、自分のSkillの核だと考えているリサーチ能力は、インタビュー能力によるところが大きいと考えていたとします。その場合は、インタビュー能力をより必要とするセールスの仕事が、一つ右隣のマスの仕事です。一つ上のマスは、リサーチ能力を活かして営業企画やマーケティングに挑戦するということになるでしょうか。あるいは異動しなくても、仕事のやり方を変えることで違うValueに挑戦することはできます。「今までの」と「新しい」の間に「隣の」というマスを置いて考えることで、具体的なチャレンジの種を思いつくことができそうです。

どのSkillをどう伸ばすかはかなり自分でコントロールできますが、そこから生み出された成果に誰がどんなValueを認めてくれるかは、自分ではコントロールしがたいことです。いくらリサーチ能力を磨いても、営業成績として結実しなければ給料は上がらないということです。逆に給料を維持するために好きでないSkillを維持する必要があるかもしれません。

チャレンジの方向性2

そういった、希望と評価とのミスマッチは誰の身にも起こることで、我々はそれを「流されている」と感じます。我々はどちらにでも動き得るということを示すために先ほどの図を拡張したのが、右図です。

この図は同時に、こうありたいと願うPassionこそが、その短期的な揺動に耐え、チャレンジ精神を我々に与えてくれる源泉であることを示しています。