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コンセプトノート

696. 冷たい知能、温かい知能

IQかEQか

IQが高いだけでは社会的に成功できない。EQ(感情的知能)も必要だという記事は、洋の東西を問わずときどき見かけます。

最近になって、いわゆる高学歴エリートの不祥事が相次ぎ、ワイドショーなどで、「学歴秀才」がやり玉に挙げられることが少なくない。(略)私が見るところ、日本のエリートに足りないのは、勉強プラスα(アルファ)の教育である。(略)アメリカでもかつて、ハーバードのビジネススクールのような一流の大学院を出ても、社会で成功できない人間が2割もいることが問題視された。(略)そして、そういう人たちの研究を通じて、彼らに足りない能力があぶり出された。それが「心の知能指数」とされるものだ。
――和田秀樹 『政治家の暴言・不倫…「学歴秀才」相次ぐ不祥事 「心の知能指数=EQ」育てる教育が必要だ』(産経ニュース、2017.10.2)

ただしEQは、「社会でうまくやっていくために必要な、IQ以外の何か」の代表格として持ち出されることが多いとも思います。実のところ1990年に提唱されたEI(Emotional Intelligence、感情的知能)の概念は、それに先だって提唱されていた多重知能理論を筆頭とした知能研究の流れに乗ったもので、もとよりIQで測れない知能すべてをカバーする目的で提唱されたわけではありません。

EQが社会的に認知されたのを受けて、2匹目のドジョウというわけでもないでしょうが、「IQとEQに加えてxQも必要」という文脈で、SQ、CQ、AQといった様々な知能が提唱されています。

冷たい知能、温かい知能

EI理論(EQ理論)の提唱者であるピーター・サロベイ教授らは、昨年20年弱ぶりに理論体系を改定しました。この20年間の知能の研究の進展と、EI理論の骨格である「4ブランチ」(4能力)の実測結果を踏まえて、より大きな文脈の中にEIを位置づけ直したという印象です。

「より大きな文脈」を説明するために、まず、知能を三層に分けたキャッテル―ホーン―キャロルの「三層モデル」を説明します。このモデルでは、最上位に一般知能(g因子)、第二階層に8~15の「幅広い知能」(大群因子)、第三階層にさらに細分化された数十の因子が位置づけられています。

サロベイ教授らは、この第二階層を「冷たい」知能と「温かい」知能に分けることができ、EIは温かい知能の一つであると述べています。

両者はどう違うのか。冷たい知能は、言語-陳述知能、数学的知能、視覚-空間的知能など、比較的人間的でない知識を扱う能力です。温かい知能は、“心臓が凍りついたり、血がたぎるような”、個人にとって重要な意味を持つ情報を扱う能力。

IQ/EQより、冷たい知能/温かい知能のほうが、漏れがなく直感的に理解しやすく、知能を二分する対としてはしっくりきます。うまい対を持ってきたなと感じました。

温かい知能=EI+PI+SI

一方で言葉の抽象度が高まるので、温かい知能の構成要素が適切に定義されていることが重要です。

著者らはEIに加えてPI(Personal Intelligence、人格的知能)とSI(Social Intelligence、社会的知能)の3つが「温かい知能」を構成すると定義しています。試訳をお目にかけましょう:

  • EI(Emotional Intelligence、感情的知能):感情と感情に関連する情報について正当に判断する能力。加えて、思考を促進するために感情を用いる能力。
  • PI(Personal Intelligence、人格的知能):自身と他者の人格について判断する能力。動機や感情、思考や知識、計画や行動スタイル、意識と自己制御など。
  • SI(Social Intelligence、社会的知能):社会的ルールや慣習や期待、社会状況や社会環境を理解し、社会階層における影響力とパワーの行使の仕方を認識する能力。グループ内およびグループ間の関係性の理解を含む。

“温かい”知能*ListFreak

個人レベルでいえば、それぞれ感情、人間的成長、地位(組織の中の位置づけ)に関する能力です。
対人関係レベルでいえば、それぞれ人づきあい、長期的な人間関係、組織の中での影響力に関する能力です。

こうしてみると、この三つ組は「温かい」知能をよく網羅しているように思えます。尊敬できる人、人間関係に長けた人を、こんな視点から観察して学んでみたいと思います。