マインドフルネス=注意+気づき、の尺度
デイヴィッド・ゲレス『マインドフル・ワーク―「瞑想の脳科学」があなたの働き方を変える』(NHK出版、2015年)で、日常生活の中でどの程度マインドフルネスであるかを測る質問が紹介されていました。
『一五の質問によって人々がどの程度現在に心を寄せているかを測るマインドフル・アテンション・アウェアネス・スケール(MAAS)を使用し、生得的なマインドフルネスの度合いを測った。』
質問そのものは載っていなかったので検索してみたところ、著者らによってパブリック・ドメインに置かれていました。(1) 教育学者らが作成した日本語版も学会誌に提出されています。(2) 勉強のために、それを参考に私訳を作ってみました。
次の15の文を、それぞれ「1:ほとんど常にある、2:とても頻繁にある、3:やや頻繁にある、4:あまりない、5:めったにない、6:ほとんど全くない」で評価してください。
- 自分の感情の動きに、後になって気づく。
- 不注意・上の空・考えごとが原因で、物を壊したりこぼしたりする。
- いま起きていることに集中し続けるのが難しいと感じる。
- 徒歩で移動するときにはさっさと歩き、道中の体験に注意を払わない。
- 身体的な緊張や不快感を、それがはっきり意識に上るまで気づかない。
- 初めて会った人の名前をすぐに忘れる。
- いまやっていることをはっきり意識せず、「自動的に動いている」気がする。
- 作業に十分な注意を払うことなく、急いで片づける。
- 達成したい目標のことばかり考えて、そこに到達するために今やっていることがおろそかになる。
- 何をやっているか気づかないまま、機械的に仕事や作業をこなす。
- 人の話を聞きながら、気づくと他のことをやっている。
- 「自動運転」状態だったため、どこかに着いてからなぜそこに行ったのか分からなくなる。
- 気づいたら、将来や過去のことで頭がいっぱいになっている。
- 気づいたら、やっていることに注意を払っていない。
- 食べているという意識のないままに間食を取っている。
マインドフルネス状態を測る15の質問 – *ListFreak
心のホーム・ポジション
眺めていると、ここ数年間での改善を実感できる項目もあります。たとえば2については、3年間ほど「音を立てない」「見届ける」というエクササイズをしてきたおかげで、物をうっかり壊したりこぼしたりすることはずいぶん減りました。粗相をしたときも「ああ、見(届け)ていなかったな」と気づけます。
日常生活で効果を実感できてきたので、半年ほど前からすこし難易度の高い状況で挑戦しています。具体的には、講義の最中に扱う小物(ポインターやタイマーなど)を見失わないこと。
講師を務めているプログラムの中には、分刻みで進行を管理しないと時間枠に収まらないようなものがあります。そんなプログラムでは、グループワークを終えたら全体で議論、議論を終えたら解説、解説を終えたら次のワーク……と、その瞬間やっていることに意識を傾注しつつ、常に次のステップへも注意を飛ばしていかなければなりません。ある種の興奮状態です。わたしのキャパシティはあっというまに一杯になり、ワークで使ったタイマー、議論で使ったマーカー、解説で使ったポインターといった小道具は、それぞれその作業が終わった瞬間に注意のスポットライトから外れます。いつどこで手放したかも定かではありません。次にタイマーを使う段になって見つからず、置いた覚えのない場所で見つけることもしばしばです。
まずは、置き場を決めることから始めました(この仕事を始めてから10年以上、そんなこともしていなかったのかと言われそうですが、していなかったのです)。まだまだ、いろんな物がどこかに行ってしまいますが、それでもホーム・ポジションがあるのはいいですね。すこし余裕があるときなどは、小物たちをホーム・ポジションに引き戻すことで、注意をあらためて今・ここに向けられるように感じます。
講義の前に慈悲の瞑想をするなどしてつくり出した心の状態を「ホーム・ポジション」呼ぶとしましょう。考えてみると、姿勢を正したり呼吸に意識を向けたりするのも、心のホーム・ポジションに戻ろうという営みといえます。小物をホーム・ポジションに戻すことで心もホーム・ポジションに戻れるならば、わたしにとっては大いに価値ある挑戦です。
(1) Mindful Attention Awareness Scale (Positive Psychology Center)
(2) 藤野正寛, 梶村昇吾, and 野村理朗. “日本語版 Mindful Attention Awareness Scale の開発および 項目反応理論による検討.” Japanese Journal of Personality 24.1 (2015).