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コンセプトノート

604. 愛の三角理論

愛の三角理論

マーカス・ウィークス『10代からの心理学図鑑』(三省堂、2015年)は、心理学のさまざまなトピックをカラフルな図鑑を眺めるように楽しめる本です。ぱらぱらとめくっていたら「愛の公式」という言葉が目に飛び込んできました。

『ロバート・スターンバーグはさまざまなタイプの愛を調べ、その関係を成り立たせるのは親密さと情熱と責任(コミットメント)という3つの基本要素だと説明しました。』

ロバート・スターンバーグは、「知恵のバランス理論」というノートでも紹介した、知能の研究者。愛についても研究していたとは。さっそく調べてみると、Wikipediaに “Triangular theory of love“(Wikipedia) という記事がありました:

  • Intimacy – Which encompasses feelings of attachment, closeness, connectedness, and bondedness.
  • Passion – Which encompasses drives connected to both limerence and sexual attraction.
  • Commitment – Which encompasses, in the short term, the decision to remain with another, and in the long term, plans made with that other.

Intimacy は親密さ。愛着、近しさ、つながりあるいは連帯、結束あるいは絆といった感情を含みます。

Passion は情熱。”limerence” と性的魅力に惹きつけられることの2つにつながるような衝動と説明されています。”Limerence“(Wikipedia) は学者の造語で、ある人との関係を作りたい・維持したいという思いが強迫的なまでに高まり、妄想に囚われたような状態です。定訳がないようなので「執着的心酔」と訳してみました。

Commitment は『10代からの心理学図鑑』では責任と訳されていますが、決意としました。日本語の責任には「責任を取らされる」といったやや受動的な意味合いを含みますが、スターンバーグの論文ではDecision/Commitmentとなっていて、自ら約束をするという意味合いが強いように思えたので。その定義が印象的でした。短期的には誰かとともにいようというdecisionであり、長期的にはその相手とともに立てた計画だと書かれています。

まとめると次のようになります。

  • 【親密さ】 愛着、近しさ、つながり、結束の感情。
  • 【情熱】 執着的心酔と性的誘因の両方につながる衝動。
  • 【決意】 短期的には誰かとともにいようという決断。長期的にはその相手とともに立てた計画。

愛の三角理論(スターンバーグ)*ListFreak

愛も意志の産物だということを明解に定義しているこの第3の要素が、本ノートで採り上げておこうという理由でした。

三角理論への愛

よくできた枠組み(フレームワーク)は、各要素が相互に排他的かつ全体として網羅的(MECE)です。愛の三角理論には、知・情・意(親密さ・情熱・決意)や短期・中期・長期(情熱・親密さ・決意)といった、よく知られた枠組みと似ているようで異なる、独自の枠組み感があります。

三要素の枠組みの中でも、三角理論(Triangular Theory)と呼ばれるような枠組みはもう一つの特徴を備えています。3要素の意味合いがうまく鼎立しているので、ABCの3要素のうち2要素を使って、うまく非Aな状態を表現できるのです。この面白さは「三極発想」で紹介しました。

実際、先述のWikipedia記事では3要素を一つも含まない状態からすべて含む状態(完成された愛)までの8通りについて、命名・定義されています。三極発想図で引用しましょう。

愚かな愛=情熱+決意-親密さとは、親密さを感じていないのに情熱に基づいて(長期的な関係を)決意してしまうこと。わっと盛り上がって結婚の約束をするようなケースだと紹介されています。

ロマンチックな愛=親密さ+情熱-決意。先のことはあまり考えない。

仲間=親密さ+決意-情熱。友情よりも強い、仲間とか同志といったイメージです。長年連れ添った夫婦、家族、親友に見られます。

ちなみに、親密さも情熱もないのに決意だけする「空虚」な愛は、政略結婚をイメージしてもらうとわかりやすいかと思います。

三極発想図にして眺めてみると、親密さを欠いた関係はいずれもネガティブな定義になっていることから、親密さが必要条件であることが見えてきます。

さらに愛の三角理論は、情熱をうまく置き換えれば人間関係一般や組織との関係を考えるのにも使えそうです。一緒にいると話が盛り上がるけれど、親密さ(愛着、近しさ、つながり、結束)を感じるかというと微妙な人または組織があるとすれば、そこには情熱はあっても親密さは薄いのかもしれません。