トレーニング無しで話し合いの力を高める方法
マネジャー向けのトレーニングの一環として、利害が対立する相手と数分間だけ話し合うエクササイズを実施しています。話し合いの目的は論理的思考・問題解決・交渉・合意形成など特定のビジネススキルを学ぶためですが、「話し合う」というフォーマットは同じです。使うスキルが何であれ、対立が架空のものであれ、2人の人間がリアルに話し合うためには、感情を整え、思考をめぐらせ、建設的な意志を保つ必要があります。実務の中では練習する機会がないので、よいトレーニングになります。
さまざまな状況で同じフォーマットの話し合いを見てきたことにより、あることに気づきました。たとえばXという交渉術を学び、話し合いのエクササイズを行った結果、参加者が「いままでよりも2割増しの成果が得られた」と感じたとします。しかしどうやら、そのうちの1割は交渉術Xではなく、エクササイズならではのある「しかけ」によってもたらされているようなのです。
そのしかけとは「話し合いの前にプランを練る時間をとること」。学んだことを話し合いに活かすため、話し合いの前にすこし時間をとり、与えられた状況下で何をどう話すかを整理してもらっています。その後の振り返りの声を総合すると、用いたスキルとは別に、このプランニングの時間そのものに効果があると考えるようになりました。トレーニング無しでも、話し合いの前にプランを練る時間をとるだけで、実感できる効果があると思います。
話し合いの前の3分間で何を考えるか
どのような話し合いであれ、どのようなスキルを用いるのであれ、プランを練る時間で考えるべきことは何か。いくつか挙げてみます。
・相手の状況に思いを馳せる
何を言うかを考えることに夢中になってしまうと、しばしば、それを聞く相手の状況や意図を確認するのを忘れてしまいます。いきなり話し合いに飛び込まず、すこし時間をとって相手の状況に思いを馳せることで、自分の言いたいことだけをとうとうと語るような失敗を避けられます。
・話を進めるステップをイメージしておく
話をどう進めたいかというステップをイメージしておけば、話し合いのプロセスを俯瞰でき、話が細部に陥って抜け出せなくなるような失敗を避けられます。
・次の一歩だけでも合意して終わると決意する
対立が深刻な場合、数分間では、それがたとえエクササイズ用の架空の対立であっても、合意に至るのは難しいものです。しかし、尻切れトンボのまま時間切れになり、なんとなく気まずい状態で話し合いが終わってしまうと、せっかくの話し合いが逆効果を生むリスクもあります。短期的・限定的であっても解決に向けた一歩を提案して小さな合意の実績を作るとか、最低でももう一度話す約束を交わすとか、次の行動だけは合意して終わろうという決意を新たにすることで、尻切れトンボのリスクを避けられます。