ミニレビュー
■ 生活品質重視の商品とは
今後の商品のあるべき姿として提唱されている「五感商品」とは、
・人間の五感を刺激し、心を打つ商品。
・品質が高く、結果、生活者・顧客のQOLを高めてくれる。
とのこと。
難しいのは、QOLをどう定義するか、ですね。著者は『どんな商品(製品・サービス)であっても、価値の原点におかなければならないのはQOL、すなわち「生活品質」である。』としたうえで、具体的にQOLを上げてくれる商品をこのように描写しています。
たとえば、私はこの原稿をトーランス(ロサンゼルス)にあるボーダーズ書店の屋外カフェでラップトップパソコンを使って書いている。テーブルには一杯のラテ。このラテは、朝から珈琲を飲んでいなかった私の頭脳を刺激してくれる。また、このカフェの空気はなんともいえない、いい香りに満たされている。すいていて、静か。南カリフォルニアの乾いた、「いい気」で満ちている。芝生ではリスが何かの実をかじっている。心をなごませてくれる。カフェの空気とラテ ― これらの商品たちは、確実にQOLを上げてくれた。味の良いラテ、清潔な空間、というのは、店で働く人間の意志の表れなのである。
うーん、もう一声、と感じます。
たしかに、同じ珈琲でも、うらぶれた感じのタバコ臭い喫茶店(これはこれでなごんじゃったりしますけど)よりは、上に書かれたような環境がいいなあとは思います。
この本は、自分だけの経済レベルを上げることに汲々としている状態を「拝金OSがインストールされている」と断じ、「スローなOSでいこう」と提案しています。しかしボーダーズでの珈琲一杯を「高いQOL」のサンプルとしてしまうと、価値観のよりどころををカネではなく品質に置き換えた「拝品質OS」と見なされる危険があります。
「スローなビジネス」とまで銘打つのであれば、自分だけの生活品質を追及するのではなく、自分と社会のWin-Winが組み込まれた商品開発に挑戦するのはどうでしょうか。例えば藤岡さんの事業みたいに、目の前の珈琲一杯がエクアドルの森林を残すために役立っていることが感じられる、というような事業設計。
■ スローなビジネスとは何か
もっと根っこから考えると、「スローなビジネス」って何でしょう。
たとえば冒頭で、右肩上がりの業績は期待できないので物量経済から価値経済に転換していこうというメッセージがあります。
しかし例えモノサシがモノから品質に変わっても、それがおカネで測られている限り、資本主義経済においては右肩上がりを目指さざるを得ない(『エンデの遺言』参照)んですよね。
わたしはいつもこの辺でこんがらがってしまいます。経済全体の規模は停滞・縮小していくとしても、個々の企業はあくまでも成長を追及することが「強制」されているはずです。おカネを借りるときには利子を付けて返すことを約束するわけですから。全額自己資金で経営するか、寄付・助成に頼って経営するなら別ですが。
・・・うーん、ちょっと考え過ぎちゃったかもしれません。この本の前作に当たる『スローなビジネスに帰れ―eに踊らされた日本企業への処方箋』は未読なんですが、この当時の「スロー」は、いわゆる脱スピード経営という意味であり、現在言われているようなスローとは若干意味合いが違いますね。