ミニレビュー
中村天風の講演録。1955年から1967年の講演テープをおこしたものです。この方は1968年に92歳でお亡くなりになっているので、最晩年の講演録ということになります。
この方の本を読んだのは初めてです。いろんなところで聖人のように言われているし、日本人で初めてのヨガの直伝者ということで、水墨画のように枯れた方を漠然と想像していましたが、講演録から窺える語り口はべらんめえ調で楽しく読めました。つい頷いてしまう平易な話と難解でためになりそうな話がいいバランスで配置されていて、巧まざる読み応え(聞き応え)が演出されています。
例えば理性と本能の関係を説くくだり。
理性心というのは、早い話が、何の力もなく、ただ小理屈こねて、べらべら、さみだれ小言のようなことばかり言い続ける家庭教師みたいなものなんです。本能心のほうは、始末におけない、親の言うことも聞かない、わがままな子供みたいなものです。のべつ、ぶつぶつ、くだらない小言ばかり言っている教師に躾させたって、言うこと聞くもんかい。それを聞くと思っているところに、あなた方のたいへんな計算違いがあるんですぜ。
理性と本能とは、それぞれ小言屋の家庭教師とわがままな子供である。なるほど。
それじゃあ、理性心と本能心を監督していくものは何かというと、それは「意志の力」であります。
意思でなく意志の字をあてているところが嬉しい。
意志を煥発せしめるのには、その鍵をにぎっている心というものに完全にその主体性を発揮せしめなきゃいけないんですよ。その主体性を発揮せしめようとするには、何をおいても心を積極化しないとだめなんです。
とまあ、だんだん難しくなってきます。普通は
「心の積極化っていってもなあ・・・」
となるところですが、天風師はヨガのマスターでもあるので、体を使った具体的な方法(「クンバハカ」など)とセットにして教えてくれます。
この章でいえばさらに「霊性心」という言葉が出てくる(引用部分の章題は「理性心と霊性心」)あたりでよく分からなくなってしまうのですが。時間をおいて読み直したい本です。