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Personal MBA――学び続けるプロフェッショナルの必携書


ミニレビュー

●5FもAIDMAもない、ビジネスの教科書

一冊で、しかも独学で、MBAに相当する知識を身につけようというテーマの本。著者がどんなトピックを選択しているのかに興味がありました。目次を開いてみると、なるほどそう来たかという感じです。第2章以降の見出しと内容をリストにまとめたのでご覧ください。

  1. 【価値創造】 人々が必要としたり、欲しがったりするものを見つけ、それを創り出す。
  2. 【マーケティング】 自分が創出したものに注意を喚起し、需要を高める。
  3. 【販売】 潜在顧客を、実際にお金を払ってくれる顧客へと変える。
  4. 【価値提供】 約束したものを顧客に提供し、確実に顧客を満足させる。
  5. 【ファイナンス】 ビジネスを続け、努力が報いられるだけのお金を生み出す。
  6. 【人々の心を理解する】 人々がどう感じ・考え・行動するかを理解し、事業に生かす。
  7. 【自分と上手につきあう】 効果的かつ効率的に働く。
  8. 【他の人々とうまく協業する】 顧客、従業員、請負業者などと効果的に協業する。
  9. 【システムを理解する】 ビジネスをシステムとして理解する。
  10. 【システムを分析する】 システムを要素に分解・測定し、構造的にとらえる。
  11. 【システムを改善する】 システムを最適化し、不確実性と変化に対処していく。

ビジネスの基礎として学ぶべき11の領域(Personal MBA)*ListFreak

項目数が多いせいもあり、パッと見ると分かりづらいですが、著者はこれらを3つにくくっています。すなわち

・ビジネスの仕組み(1〜5)
・人々の働き方(6〜8)
・システムの仕組み(9〜11)

です。1〜5は著者が「ビジネスの五つの構成要素」と呼ぶもので、解説部分も本文から引用しました。いわゆるMBAで教える内容を著者なりにまとめ直しているので、読み進めやすく感じます。参考までに「いわゆるMBA」的な本として、本書と同じく総説っぽいつくりの『グロービスMBAマネジメント・ブック』の目次と比べてみます。

第1部 経営戦略
第2部 マーケティング
第3部 アカウンティング
第4部 ファイナンス
第5部 人・組織
第6部 IT
第7部 ゲーム理論・交渉術

「経営戦略」ではSWOT分析とか5Fとか3Cとか、そういう項目が並んでいるわけですが、本書にはどれもありません。「マーケティング」にあるAID(M)Aも、本書にはありません。これらのフレームワークがもはや有用でないという意味ではないでしょう。ただ、著者が必要なものをゼロから並べ直していった結果、古典的なフレームワークの多くが本書の限定された紙面から外れることになったのだと思います。

「経営戦略でないとすると、【価値創造】の章ではいったい何が書かれているのか?」と感じるかもしれません。本書で書かれているのは、人々は何に価値を感じるか、その価値を満たすビジネスの方法としてどんなやり方があるかといったことです。そこさえしっかりつかめれば、戦略立案は、それこそ本を読めばできるでしょ、と言わんばかりです。

●ビジネスを人々の営みとして見つめる

逆に著者が重きを置いたのが、「人々の働き方(6〜8)」「システムの仕組み(9〜11)」という領域。章の数でいってもページ数でいっても、これらのテーマに本書の半分が割かれています。
「人々の働き方」を読むと、著者の人間中心的な視点がよく分かります。商取引もチームワークも自分の仕事もすべて人間の営みであるという視点から、人間心理を学ぶこと、意欲や感情に配慮することの重要性に気づかせてくれます。
「システムの仕組み」を読むと、ビジネスを社会価値の創造・提供活動として考えるというマクロな文脈においても、日々のオペレーションをきちんと回しながら改善していくというミクロな文脈においても、全体と部分の関係を把握することの重要性に気づかせてくれます。

……というわけでとても魅力的な本でしたが、難点は大きさと重さです。488ページ739グラムもあります。新しいiPadだって652グラム(Wi-Fiモデル)ですよ。総覧という構成から考えても、検索しやすい電子書籍版があればそちらが望ましいように思いました。

※英治出版から献本をいただきました。ありがとうございました。ただ先に購入してしまっていましたので、献本ぶんはメールニュース[週刊 起-動線]の読者プレゼントとさせていただきました。

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